#  752

『ティファニー/ルビー&サファイア』
text by 望月由美


Eighty Eight's/Village Music VRCL-18849-18850(2枚組) 
3,465円 ( CD&SACD HYBRID )

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Disc One 『Ruby Disc』:

ティファニー (vo)
山本剛 (p)on 1,2
野本晴美 (p)on 4,5,6
井上陽介 (b)
ジミー・スミス (ds)
レイモンド・マクモーリン (ts) on 4,5,6
外山喜雄 (tp&vo) on 2
田辺允邦 (g) on 3

1. 赤とんぼ〜スターダスト
2. 君ほほえめば
3. ホワイ・ドント・ユー・ドゥ・ライト
4. A列車で行こう
5. アイヴ・ガット・ユー・アンダー・マイ・スキン
6.スマイル

Disc Two 『Sapphire Disc』:

ティファニー (vo)
ケイレブ・ジェームス (p ,Fender Rhodes、Hammond B organ)
日野“JINO”賢二 (b)
ジェイ・スティックス (ds)
マサ小浜 (g)
鈴木央紹 (ts、ss)on 5,6
MARU&AZU (chorus) on 5

1. レット・イット・ビー
2. ローズ
3. フィール・ライク・メイキン・ラブ
4. ユーヴ・ガット・ア・フレンド
5. ウィル・ビー・トゥゲザー
6. ジョージア・オン・マイ・マインド

プロデューサー:伊藤八十八
録音:2010年8月、DSD Recording
スタジオ:ソニーミュージック乃木坂スタジオ 
エンジニア:篠笥 孝 (ソニーミュージック)

 “ティファニーで朝食を”はオードリー・ヘプバーンだが、“ティファニーで『ルビーとサファイア』を”とはなんともゴージャスな形容であり、キュートで愛くるしい彼女にとってまさにジャスト・フィットなタイトルである。
 伸びやかで豊かな声量、爽やかなスイングとグルーヴ感、そして底抜けに明るい表情の豊かさ、ふっと垣間見せるコケティッシュな女の色香。原石をピカピカに磨きあげたティファニーが『ルビー』と『サファイア』の二つの宝石箱に収められていて、さあ、私の輝きを鑑賞して下さいね、とほほ笑んでいるようである。

 本作品は二枚組み。一枚目の『ルビー・ディスク』は山本剛(p)や外山喜雄(tp,vo)、野本晴美(p)、井上陽介(b)、ジミー・スミス(ds)、レイモンド・マクモーリン(ts)、田辺允邦(g)が曲によって組み合わせを変え、いくつかの小編成グループをつくり、ティファニーとのジャズ・スタンダードの会話を楽しんでいる。二枚目は『サファイア・ディスク』と名づけられケイレブ・ジェームス(key)等によるエレクトリックなサウンドにのってコンテンポラリーなポップ・スタンダードを唄ったもので構成されているが、選曲といい、編成といい、サウンド・カラーといいその色分けが心憎い。

 先ず、最初の一音を聴いて驚嘆した。SACDで聴くティファニーはPAを通して聴くライヴよりも一段と生々しく真に迫ってくる。ティファニーの、温かみ、体温が伝わってきてあたかもティファニーが目の前に立って唄ってくれているような気配がする。まさにティファニーが眼前に現れるのである。そして愛くるしい魅力がものの見事に目の前に広がる。彼女のパーソナリティーが生き生きと表現されているのである。

 一枚目『ルビー・ディスク』の(1)<赤とんぼ〜スターダスト>、山本剛のピアノに導かれてティファニーがしっかりとした日本語で夕焼け小焼けを唄う、奥行きの深さが静けさを際立たせる。そしてスターダストへとつながる。井上陽介(b)の力強いビート、ジミー・スミス(ds)のブラシが加わる、ジャズがしみてくる。音を選び抜いたような簡潔な山本剛のソロが光る。そして(2)<君ほほえめば>では外山喜雄が加わり、ブリリアントなトランペットでオブリガードをつける、なんと若々しいこと。空気は一変し明るいハピーなムードとなり、外山のヴォーカルがティファニーに寄り添い掛け合いを始める、エラ&ルイの現代版である。(3)<ホワイ・ドント・ユー・ドゥ・ライト>ではピアノが抜け、田辺允邦のギターとのコラボレーションで思わずペギー・リーを思い出すのは筆者だけではないと思われる。ベースの井上陽介が刻むクリアなリズムに導かれスウィートに唄うティファニーに田辺のギターが絡む、ゴージャスなムードが漂う。(4)<A列車で行こう>からはピアノが野本晴美に代わり、テナーのレイモンド・マクモーリンが加わる。ジミー・スミスの衝撃的なハイ・ハットの一撃から一変ライヴ・ハウスのリラックスしたムードが漂い始める。レイモンド・マクモーリン、野本晴美がソロをとりティファニーがスキャットでジミー・スミスとバースの応酬をする。スキャット・ヴォーカルの楽しさを満喫できる。野本晴美(p)もティファニーとはライヴで何度も共演している間柄であり、控えめながら端正で粒立ちの良いタッチで好サポート。レイモンド・マクモーリン(ts)はメロディを大切にするオーソドックスなメイン・ストリーマーでオブリガードも間奏もティファニーとの呼吸がぴったりである。ジミー・スミス(ds)もファースト・アルバム『ザ・ニアネス・オブ・ユー』(VRCL-18834)以来の共演で心の通い合った温かいプレイで好サポート、羽のように軽やかなリズムはジミー・スミスならではのテイストである。
 二枚目の『サファイア・ディスク』は共演メンバーもケイレブ・ジェームス(key)、日野賢二(b)、ジェイ・スティックス (ds)、マサ小浜 (g)のギター入りカルテットに曲によって鈴木央紹のサックス、MARU&AZUのコーラスが加わる。エレガントなエレクトリック・サウンドをバックにビートルズの(1)<レット・イット・ビー>からスタートし、ベット・ミドラーの持ち歌の(2)<ローズ>、ロバータ・フラックの(3)<フィール・ライク・メイキン・ラブ>、キャロル・キングの(4)<ユーヴ・ガット・ア・フレンド>、スティングの(5)<ウィル・ビー・トゥゲザー>、レイ・チャールスのヒット曲(6)<ジョージア・オン・マイ・マインド>とコンテンポラリーなヒット曲で構成されている。日野賢二の凄みの利いたエレクトリック・ベースとマサ小浜の小気味良いカッティング等々に乗ってティファニーがメローに唄う。もっともティファニーは普段のステージではジャズのスタンダードの中にこういったコンテンポラリー・ソングもちりばめて唄っているのだが、こういう風に一枚ずつに纏めると、ティファニーのレパートリーの広さが改めて再認識される。

 そして、もう一つは録音の素晴らしさである。Eighty-Eightsの作品は発足以来、DSD方式で録音し、パッケージングは「CD-SACD/HYBRID」で制作することをモットーとしてきているがこのアルバムではSACD層だけでなくCD層でも快適な臨場感を示しているのは、元の音録り、マスタリングが精緻で優れているからであり、ティファニーやミュージシャンの編み出す音そのものが良かったからだと思う。ティファニーの魅力が言葉を超えて伝わってくる。

 Eighty-Eightsからデビューして5年、着実に前進しその成果を形にしてきたティファニーの第5作目『ルビー&サファイア』は前作『イエスタデイ・アンド・イエスタデイズ』(VRCL-18845)から丁度一年、DISC『ルビー』とDISC『サファイア』それぞれおよそ30分程度の時間で、丁度LPのA面、B面の感覚で楽しめる。これ以上の組み合わせは無いと思われるような企画・構成が彼女の持ち味、魅力を100%引き出している。持ち前の声質の良さに加えて落ち着いた安定感も備わり、自信がみなぎっているのが2枚の両面から伝わってくる。これはミュージシャン、プロデューサー、エンジニアのコンビネーションの良さが実を結んだことが窺い知れる。そしてデビュー以来ずっとティファニーの笑顔を撮り続けている中平穂積さんのジャケット写真ももこのプロジェクトの一員として光を放っている。(望月由美)

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