#  755

『スティーヴ・サックス/クリスマス・プレゼンス』
text by 稲岡邦弥


Stephan A. Sacks XPD 1225 2,500円(税込)

1. きよしこの夜
(Franz Gruber)
2. 山上より告げよ
(Afro-American spiritual)
3. 荒野の果てに
(French carol)
4. 神の御子は今宵しも
(John Frabcis Wade)
5. モミの木よ
(German folk tune)
6. 御使いうたいて
(traditional English tune)
7. たいまつ手に
(French carol)
8. クリスマス・プレゼンス
(Steve Sacks)
9. 私は乙女を見た
(Basque traditional carol)
10. エサイの根より
(German carol, arr. Michael Praetorius)

スティーヴ・サックス (soprano sax)
ジョナサン・カッツ (piano)
安ヵ川大樹 (bass)
加納樹麻 (drums)
秋田慎治 (piano)
コモブチキイチロウ (bass)
藤井 摂 (drums)
竹中俊二 (guitar)

Produced by Steve Sacks
Recorded at Wonder Station, Tokyo

先月、姉妹都市である倉敷市に滞在していたアルトサックスのベテラン奏者ボビー・ワトソンに、カンザス・シティのサポーター竹村洋子さんに加わってメール・インタヴューをする機会があった。インタヴューを締めくくる質問としていつものように「夢」を聞かせてもらった。「夢」のなかに「クリスマス・アルバム」と「ストリングス・アルバム」の制作が含まれていた。
「ストリングス・アルバム」の制作は要するにお金の問題である。しかし、「クリスマス・アルバム」の制作は次元が異なる。ボビーがどれほど敬虔なクリスチャンであるかに関わらず、彼らにとって「クリスマス・アルバム」を手がけることは「夢」を語るに等しい部分があるのだ。スティーヴ・サックスは敬虔なクリスチャンである。数年前、東京に教会を興した。そういう人間が「クリスマス・アルバム」を手がける決心をした。結果として1年の歳月を必要とした。ライナーに彼自身の「証」(あかし)が記されている。
自我が過ぎて離婚を経験したが、新しい伴侶を通してイエス・キリストに出会う。“暖かく光り輝くイエス・キリストの存在(presence)の内に、キリストから私への愛という素晴らしいプレゼント(presents)を見つけました”。
アルバム・タイトルの『クリスマス・プレゼンス』は、うっかりすると『クリスマス・プレゼント』と見誤ってってしまうが、あながち誤りともいえない。キリストから愛を受けたスティーヴからリスナーへのプレゼントなのだから(じつはスティーヴはオヤジ・ギャグの遣い手でもある)。
内容は、一般にも馴染みのあるクリスマス・キャロルをテーマとするジャズ・フュージョンである。小野リサのバンドでも活躍していたキャリアもあるからラテン・フレイバーに彩られた演奏も少なくない。スティーヴを始めメンバーはみな日本のジャズの第一線で活躍するプレイヤーだから安心して心地よい世界に浸ることができる。しかし、そこは即興に生きるジャズ・ミュージシャン。ピアノのジョナサン・カッツ、思わず熱くなってソロがファーラウトし出し、フェイド・アウトされてしまう(#6)。スティーヴ・サックスも唯一の自作曲ではソロで熱く盛り上がる (#8)。
聴き終えて清々しく、ほのぼのとした気分に満たされるのは「人はひとりでは生きられない」ことを体験したスティーヴのサックスから滲み出る愛のお陰だろう。(稲岡邦弥)

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