# 762
『RONNIE LYNN PATTERSON/MUSIC』
text by 望月由美
OUT NOTE RECORDS OTN-001
ロニー・リン・パターソン(p)
フランソワ・ムタン(b)
ルイ・ムタン (ds)
1.Lazy Bird(John Coltrane)
2.Moon and Sand(A.Wilder、W. Engvick、M.Palitz)
3.Evidence(Thelonious Monk)
4.All Blues(Miles Davis)
5.Blues Connotation(Ornette Coleman)
6.It’s Easy To Remember(R.Rodgers、L.Hart)
7.Summer Night(A.Dubin、H.Warren)
8.Blue In Green(Miles Davis&Bill Evans)
プロデユーサー:Jean-Jacques Pussiau
録音:2009年10月16、17日
スタジオ:Studio La Buissonne
エンジニア:Gerald de Haro
『OWL Records』でミシェル・ペトルチアーニをはじめポール・ブレイ&ゲイリー・ピーコック、ジミー・ジュフリー等の清新なアルバムを手がけ、『night bird music』でデイヴ・リーブマン等の名作をプロデュースしたジャン・ジャック・プショーが新たに立ち上げたレーベル『OUT NOTE』の第一作である。これまでジャン・ジャック・プショーの制作するアルバムには独特の香りと品位が漂い、プロデューサーの存在を何時も音の背後に感じていたので新レーベルの第一作も気になって聴いた。
先ず、ジャケットの装丁もCDのラベルも含めてブルーに統一されて落ち着いたデジパック仕立てで、『OUT NOTE』レーベルのイメージを浮き立たせている。そして選曲もジャズの偉大なパイオニア達のオリジナル曲、もしくは名演奏で知られるスタンダード曲に統一されている。これだけ名曲が並ぶとキース・ジャレットのスタンダード・トリオの亜流かと首をかしげたくなるかも知れないが、ロニー・リンとムタン兄弟の3人はそういった安易な下心など微塵も見せず全力でこれらの曲に対峙している処に好感が持てる。キースのスタンダード・トリオとの一番の違いはムタン兄弟にあるようである。ゲイリー・ピーコックとジャック・ディジョネットの円熟した老練なリズムに対してムタン兄弟はひたすらスイングすることに懸命である。世代の差もあるのかも知れないがフレッシュである。(1)<レイジー・バード>はお馴染みの『ブルー・トレイン』(Blue Note)からの曲で、かなりのアップテンポで演奏しているが不思議なくらいに安らぎを覚える。コルトレーンをリスペクトする気持ちが3人のプレイから聴き取れるからである。テーマからアドリブに入るとロニー・リンはキースのように、いやそれを上回るほどの唸り声を発するがキースや菊地雅章の声を聴き慣れている者にとっては格別気にはならないし、音楽の一部として受け取ることが出来る。さて、ルイ・ムタン(ds)だが初めブラシでスタートし、途中からスティックに切り替えて軽快にスイングするサウンドが気持ちよい。(2)<ムーン・アンド・サンド>はキースでお馴染みの曲だがフランソワ・ムタン(b)がしなやかな弦捌きで曲に変化をつけている。(3)<エヴィデンス>はお馴染みのモンクの曲。この曲はアート・ブレイキーやロイ・ヘインズ、フランキー・ダンロップ等の名手の名演が耳に残っており、かなり叩きにくいのではと思うのであるが、ルイ・ムタン(ds)はイマジネィティヴな発想で固定のイメージから抜け出し、現代風な、<エヴィデンス>を創り上げるのに成功している。(4)<オール・ブルース>と(8)<ブルー・イン・グリーン>はご存知『カインド・オブ・ブルー』(CBS)からのマイルス曲。アルバムのライナー・ノーツで<ブルー・イン・グリーン>の作曲者をマイルスとビル・エヴァンスの二人とクレジットしているのはジャン・ジャック・プショーの意向なのだろうか、私もこの曲はエヴァンス抜きには出来上がらなかったのではと思っている一人なのでこの表示にはとても嬉しい。2曲とも『カインド・オブ・ブルー』の落ち着いた風情をたたえた好演であり、あの『ポートレイト・イン・ジャズ』(Riverside)でのビル・エヴァンスの典雅さこそないが、ロニー・リン独特の華がある。(5)<ブルース・コノテーション>はオーネットの『ディス・イズ・アワー・ミュージック』(Atlantic)の冒頭を飾ったオーネットの代表曲。ムタン兄弟の軽やかなリズム・アクセントによって軽快でコンテンポラリー風な仕上がりで楽しめる。(6)<イッツ・イージー・トゥー・リメンバー>はいうまでもなくコルトレーンの『バラード』の収録曲として有名なリチャード・ロジャースの曲であるが最近はキースのスタンダード・トリオのレパートリーとしても定着している。ロニー・リンは1958年カンサス州の出身。12歳から20歳までドラムを勉強していたが、その後ピアノに転向したと云う。 ピアノに転向するきっかけとなったピアニストのひとりがキースだったようで、ここでの演奏はかなりキース・ジャレットに近いスタイルである。
アメリカでは脚光を浴びることなく1991年フランスに渡ったロニー・リンは2003年にジャン・ジャック・プショーの『ナイトバード・ミュージック』レーベルでアルバム・デビューを果たしている。ロニー・リンにとってジャン・ジャック・プショーとの出会いは自己の才能を開かせる大きな力になっているように思う。因みにジャン・ジャック・プショーの『OUT NOTE』レコードは2作目にデイヴ・リーブマン&リッチー・バイラークの<クエスト>をカタログに載せている。ジャン・ジャック・プショーの今後の創作活動に期待したい。(望月由美)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
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