#  763

『Joachim Kuhn - Soundtime』
text by 須藤伸義/Nobu Stowe


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Jazzwerkstatt 094

CD1: Fallenlassen

Der Wanderer/ Die Schaukeln, Die An Den Sternen Hangen/ Klanggebiete III/ Klangfeld I/ Bukowski/ Klanggebiete II/ Klangfeld II/ Azoren/ Leo

Recorded on February 8, 2010 at Hansahaus-Studio, Bonn, Germany by Oliver Bergner & Nico Raschke (assistant), Bosendorfer Imperial piano tuned by Andre Wedel

CD2: Freiheiten

Source Bleue Du Meski/ Zaida Lunch/ Deep Enough/ Freiheiten I/ Freiheiten II/ Freiheiten III/ Freiheiten IV/ Phrasen/ Freiheiten V/ Back In Pietri

Recorded on July 1, 2009 at CMP Studio, Zerkall, Germany by Walter Quintus, Bechstein EN piano tuned by Albert Rollicke

CD3: Klangbilder

Meknesia/ Hassan Echair/ Hotel Pietri/ Souce Bleue Du Meski/ Sahara Sky

Recorded on April 13, 2008 at Robert Arato Studio, Ibiza, Spain by Robert Arato, Bosendorfer Imperial piano tuned by Robert Arato

CD4: Volume

Deep Enough/ Endlich, Ein Unendliches Ende/ Etzen/ Oase/ Plattform/ Now Or Never Again/ Queen/ In Advance/ Pleasure/ Episode I/ Episode II/ Episode III/ Episode IV/ Episode V

Recorded on March 3 & April 6 &, 2007 at Robert Arato Studio, Ibiza, Spain by Robert Arato, Bosendorfer Imperial piano tuned by Robert Arato

CD5: Moving

Tiefenrausch/ Seelandschaften/ The Sea Is Free/ Ruhige Gewasser

Recorded on February 22, 2006 at Robert Arato Studio, Ibiza, Spain by Robert Arato, Bosendorfer Imperial piano tuned by Robert Arato

CD6: Lichtblicke

No Effort/Salinas Beach/ Weggetragen/ Aussage/ Regen/ Jenseits/ Worldtrip

Recorded on June 6, 2006 & December 12, 2007 at Robert Arato Studio, Ibiza, Spain by Robert Arato, Bosendorfer Imperial piano tuned by Robert Arato

Produced by Joachim Kuhn
Mastered by Qalter Quintus at CMP Studio, Zerkall, Germany
Executive Producer: Ulli Blodel

ヨアヒム・キューンの新作『Soundtime』は、6枚組の大作ソロ・ピアノ集だ。“ジャズ”のソロ演奏で、これほどのヴォリュームは、キース・ジャッレットpの『Sun Bear Concerts』(ECM:1976年)くらいしかないと思う。キースのアルバムは、1976年に敢行した日本縦断公演を収録しているが、ヨアヒムの新作には、2006−2010年にかけて、彼が住んでいるスペインのイビザ島の他、ドイツのボン及びツァーカルでの演奏が収められている。CMPレコード時代よりの付き合いの名技師=ヴァルター・クィントスが、一部の録音及びマスタリングを担っている。CD2で使用の、ベクステイン(フランツ・リストも愛用したピアノ。日本では、ベヒシュタイン。)以外、97鍵盤(通常のピアノは、88鍵盤)を誇るベーゼンドルファー・インペリアル・ピアノを使用。芳醇な共鳴音と、エクステンド・ベースを効果的に取り入れた重厚な音色が、鮮明に刻印されている。プロデュースは、キューン自身。

各CDには、Fallenlassen(ドロッピング)/Freiheiten (フリーダム)/Klangbilder(サウンドスケープ)/Volume(ヴォリューム)/Moving(ムーヴィング)/Lichtblicke(ブライト・フューチャー)という“副題”が、ついている。CD毎の音楽性の差はあまり感じられないが、録音が新しくなるにしたがい、テクニックで押しまくるより、空間を響かせるピアノ・スタイルに変化してきている。しかし、部分部分に、彼のトレードマークともいえる、奔放なアルペジオ奏法や、ダイナミックなリズムのキレも織り交ぜ、変化に富むピアニズムを堪能できる。ライナーノートによれば、ヨハン・セバスチャン・バッハ活動の中心地=ライプツィヒ出身のヨアヒムが「オーネット・コールマンとの演奏を通して、真にバッハの音楽に目覚めた」とのこと。たしかに、バッハからの影響を昇華させた “対位法”的演奏やバロック音楽を抽象化させたようなフレーズが、耳に残る。

収録された音楽は、作曲にある程度基づいている演奏が中心だと思うが、何曲かは“純粋な即興演奏”かも知れない。とくに、CD4“Moving”は、キースのソロ・ピアノにも通じる“完全即興”(多分)が聴かれる。ただ、90年代以降のキースの即興が、作曲に匹敵する構成美を誇るのに対し、ヨアヒムの(長編作で聴かれる)即興は、移ろい往く心象風景を思いつくままに綴っている感がある。これは、そのままキースの初期作、たとえば『Concerts』(ECM:1973年)などにも該当するが、キースほど、情緒的メロディーに傾倒せず、ヨアヒムは、よりアブストラクトでクールな視点からフレーズを創作している。しかし、素直に心触れる旋律も現出する。白眉は、2つの異なるヴァージョンが収録された〈Source Bleue Du Meski〉(モロッコに在るオアシスに由来)だろう。大作なので、手が出にくいかもしれないが、ピアノ・ファンは、是非チャレンジして欲しい。

『Soundtime』をリリースしたJazzwerkstattは、ベルリンに本拠を置くレーベル。かつてWest Windを主宰していた旧東ドイツ出身ウディ・ブロデル氏が、新しいジャズを切り開くべく設立した。最近紹介したペリー・ロビンソンcl・トリオ『From A To Z』や、ヨアヒムの兄で、ヨーロッパのみならずジャズ・クラリネット史に輝かしい足跡を残すロルフ・キューンcl、ペーター・ブロッツマンts、アクセル・ドナーtp他のドイツ人ミュージシャンの作品を勢力的にリリース/プロモートしている、要注目のレーベルだ。2011年1月より、キング・レコードを通して、日本で正式ディストリビュートされる予定とのこと。今後の展開に期待したい。(須藤伸義/Nobu Stowe)
*編集部註:本稿は年末特集「この1枚/海外篇」に寄稿されたものです。

*『Soundtime』は、アマゾン/ディスク・ユニオン等で購入可能。
**詳細は、以下のレーベル・ホームページで:

Jazzwerkstatt Records (www.records-cd.com)

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

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#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
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CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
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