# 766
『THE DAVID LIEBMAN TRIO/LIEB PLAYS À LA TRANE』
text by 望月由美
DAYBREAK DBCHR75978
David Liebman(ss,ts)
Marius Beets(b)
Eric Ineke (ds)
1.All Blues(Miles Davis)
2.Up Against The Wall(John Coltrane)
3.Mr.P.C.(John Coltrane )
4.Village Blues (John Coltrane)
5.Take The Coltrane(Duke Ellington)
プロデューサー:David Liebman
録音:2008年4月3日
場所:De Singer、Rijkevorsel、Belgium
エンジニア:Kris Roevens
タイトルどおりデイヴ・リーブマンがコルトレーンゆかりのブルースを演奏したライヴ盤である。デイヴ・リーブマンは60年代の初めにコルトレーンのライヴ演奏を生体験しこの道に進むことを決めたというが、全編にわたってコルトレーンへの熱い思いが伝わってくる。理屈抜きにひたすらブルースを吹く、大ブローイング・セッションである。
デイヴ・リーブマンは 『CHALLENGE』 傘下の 『Daybreak』 レーベルに 『Lieb Plays・・・』 のシリーズとしてクルト・ワイルとアレック・ワイルダー集をリリースしており、2008年の春、この二人の作曲家の曲を演奏する“ワイル/ワイルダー・ツアー”を行っていたが、その途中ベルギーの小さなクラヴ 『De Singer』 に立ち寄った。そのときに、デイヴ・リーブマンは、此処では二人の作品集を演奏するよりもブルースの方がふさわしいと肌で感じ、気の赴くままにブルースを演奏したのだという。そして後になってこの時の演奏が録音されていたことを知りCD化したものだそうだ。この 『De Singer』 という店のスケジュールを見るとペーター・ブロッツマンやICP、フレッド・ヴァン・ホーフ等が出演しているかと思えばロックからコメディまでがプログラムされている。どうもこのお店はジャンルにとらわれずにミュージシャンに自由度を与える空間のようで、デイヴ・リーブマンのトリオがコルトレーンという泉から湧き出すブルースを懸命に汲み上げる過程がなにも加工しないで自然に録られている。
デイヴ・リーブマンはヨーロピアン・グループとしていくつかのユニットを組織しているがこのトリオは「Dutch Trio」といい、オランダのマリウス・ビーツ(b)、エリック・イネケ(ds)という顔ぶれである。デイヴ・リーブマン自らエリック・イネケを“最もスイングするドラマー”といっているように、とにかくこの二人のリズムはハードでヘヴィーなリズムを送り続けリーブマンを鼓舞し続ける。この前のめりの威勢のよいスイング感はハン・ベニンク以来オランダに根付いたものなのかも知れない。曲はもうお馴染みのナンバーばかりで、(1)<オール・ブルース>はマイルスの『カインド・オブ・ブルー』(CBS)、(2)<アップ・アゲインスト・ザ・ウォール>は『インプレッションズ』(Impulse!)、(3)<ミスターP.C>は『ジャィアンツ・ステップス』(Atlantic)、(4)<ヴィレッジ・ブルース>は『コルトレーン・ジャズ』(Atlantic)、(5)<テイク・ザ・コルトレーン>は『エリントン&コルトレーン』(Impulse!)が初出の曲で、デイヴ・リーブマンは(1)と(4)をソプラノ・サックスで(2)(3)(5)をテナー・サックスで吹いているが円熟こそすれまだまだ元気一杯、ロング・ブローイングを楽しんでいる。リーブマンはこのベース&ドラムス&サックスという同じ編成のトリオをいくつか持っていて、時と場合に応じて使い分けている。ジャン・ポール・セレア(b)、ヴォルフガング・レイジンガー(ds)とのトリオでもアルバム『ゴースツ』(Night bird Music)で<マイ・フェイヴァリット・シングス><ナイーマ>などコルトレーン愛奏曲を演奏しているが、この時も三者のインタープレイが息詰まるようなテンションを生み出していた。デイヴ・リーブマンがコルトレーンを演奏するには正にこの編成が一番しっくりくるのではないかと思われる。
デイヴ・リーブマンはこれまでにもコルトレーンを題材にしたアルバムを多数創っている。『Homage To John Coltrane』 (OWL)、『Tribute To John Coltrane』 (King)等が代表的なアルバムとして知られている。このアルバムもその一枚に付け加えられるわけだが、ブルースばかりをひたむきにブローした本作はデイヴ・リーブマンの50年間にわたるコルトレーンへの想いが素直に詰まった作品であり、あらためてコルトレーンを見つめ直す良い機会をも与えてくれた。このリーブマンのピアノレス・トリオをちょっと小さなライヴ・ハウスで生演奏を聴きたくなる、そんなアルバムである。(2011.2.2 望月由美)
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