#  772

『Anthony Brown’s Asian American Orchestra/India & Africa - Tribute to John Coltrane』
text by 横井一江


Water Baby Records WBR1110
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Anthony Brown (ds, per, cond)
Danny Binker (bs, contralto clarinet, ss)
Mark Izu (b, sheng)
Henry Hung (tp, fl)
Masaru Koga (ss, ts, shakuhachi)
Richard Lee (bass tb)
Melecio Magdaluyo (as,ts, ss)
Maricia Miget (fl, ss, as, ts)
Kenneth Nash (African, American and Asian percussion)
Pushpa Oda (tambura)
Steve Oda (sarod)
Dana Pandey (tabla)
Glen Pearson (p)
Geechi Tayer (tp, fl)
Kathleen Torres (French horn)
Wayne Wallace (tb)

INDIA: DIASPORA
1. Living Space
2. India
3. Ole
4. Tabla - Sarod Duet
5. India - Reprise

SUITE: AFRICA
6. Exaltation
7. Africa
8. Liberia
9. Percussion Discussion
10. Dahomey Dance
11. Africa - Reprise
12. Encore: Afro Blue

Recorded Live at Yoshi’s, Oakland 4/21/2010 and San Francisco 9/23/2009 (track 6)

 アンソニー・ブラウンがエイジアン・アメリカン・オーケストラ(AAO)での活動を初めてから既に十年以上の歳月が経つ。AAOはその名前のとおり、日本人の母を持つブラウンを始めとして、アジア系のミュージシャンによるジャズ・オーケストラである。なによりも特徴的なのはその楽器編成で、尺八、シェン(中国笙)、タブラ、サロード、タンブーラなどの奏者がいることだ。しかし、それだけを見てキワモノ視してはいけない。奇跡的といっていいくらい、その融合に成功しているのだ。それはひとえにアンソニー・ブラウンの編曲の才によるものだろう。
 本作はタイトルが示すように、ジョン・コルトレーンが探究していたインドとアフリカというテーマにスポットライトを当て、コルトレーン作品にオリジナル曲などを加えて仕立て上げた二つの組曲、「インディア:ディアスポラ」と「組曲:アフリカ」を録音したコンセプト・アルバムである。
 冒頭のトラック<リビング・スペース>におけるマーク・イズのシェン(中国笙)による深淵な導入部分、それにまず耳が拓かれた。雅楽からの影響を感じるサウンドだ。ブラウン自身が書いたライナーノートには、コルトレーンのレコードで<リビング・スペース>を聴いた時に、ヘテロフォニー(複数奏者によるユニゾンで音程やリズムに微妙なズレが生じた状態)から雅楽を思い起こしたとある。それが本作でのアレンジに繋がったと言っていい。しかもここではサックスではなくマサル・コガの尺八をフィーチャーしている。「インディア:ディアスポラ」の旅はまず日本から大陸へと向かうのである。そして<インディア>、その冒頭でサロードを弾く日系のスティーヴ・オダは、ジャズ好きだったティーンエイジャーの頃、実際にコルトレーンが<インディア>を演奏するのを1963年に観たという時代の証人のひとりだ。ブラウンはインドの楽器を取り込んだ編成で、コルトレーンが行き着いたモーダルな表現、その根源を掘り起こしつつアレンジしている。続いて<オレ>を取り上げたのは、この曲で題材として取り上げているフラメンコの形成に重要な役割を担ったヒターノ(スペインのロマ)のルーツは北インドといわれるからだろう。「ディアスポラ」とあるのはそれゆえか。そして、タブラとサロードによるインド的な即興演奏を経て、再び<インディア>で締めくくる。選曲の妙、そしてルーツの異なるアジアの楽器と音楽を取り込み、壮大な組曲に仕立てあげたブラウンの手腕に感服した。
 「組曲:アフリカ」では、随所でフィーチャーされるパーカッションが肝で、サウンドを浮き立たせている。<アフリカ>ではマサル・コガのテナー・サックスが一本芯の通った骨太のジャズを聴かせ、<リベリア>ではメレシオ・マグダルヨのテナー・サックスとグレン・ピアーソンのピアノがドラマを奏でる。ソリストの切れ味、またアンサンブルにおけるキッチリとした演奏から、サンフランシスコ・ベイ・エリアにおけるミュージシャンの層の厚さが窺(うかが)える。オークランドのヨシズ(YOSHI’S)でのライヴ録音ということもあって、観客が演奏にダイレクトに反応し、演奏がよりホットになっていく様子が目に浮かぶ。ケネス・ナッシュとブラウン自身によるパーカッションによる即興演奏、この二人がソロをとるモンゴ・サンタマリア作曲の<ダホメ・ダンス>は実にエキサイティング。アンコールは<アフロ・ブルー>。インドそしてアフリカへの旅の大団円を、それらのエッセンスが盛り込まれ、ラテン・ビートも取り込まれたその曲で締めくくるとはニクイ。
 この作品は、アフリカ系と日系の両親を持つブラウン自身はもちろん、それぞれのメンバーにとってもルーツを巡り、自らの音楽を見つめ直す旅である。このようなプロジェクトが生まれた背景には、アジア系移民の人口比が高いサンフランシスコ・ベイ・エリアという地域性があるのではないだろうか。ジャズはグローバルな広がりを持ちながらもローカルに根付いている。それを実感させる最良の音に出会えたことが嬉しい。
 コルトレーンの神話性は70年代以降どんどん薄れていった。しかし、世界の各地で異境化が進み、それがどのような音楽ジャンルで捉えられるのは別にしても、ジャズもまた再び他地域の音楽との混交が進む現代だからこそ、コルトレーンの探究、とりわけ後期の音楽が再び意味を持ち始めているのかもしれない。それをアンソニー・ブラウンは気づかせてくれた。(横井一江)

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