実は、津軽三味線の音色が好きだ。中でも、故高橋竹山の演奏を時々無性に聴きたくなる。今年生誕100年だそうだ。生誕地では、老若男女、現在の名人達が集い生誕100年を記念するコンサートを、竹山氏の遺志を引き継ぎ無料で開催したと聞く。そしてキングレコードからはこの２枚組ＣＤが発売された。

１枚目は昭和49年に青森県で行ったライブ版、２枚目は民謡とその伴奏としての三味線演奏（録音年はいろいろのようだ）、お弟子さん達にお稽古をつけるときの様子を録音したもの（比較的新しく平成２年）、昭和３３年録音のボーナストラックという構成になっている。実は、最近の我が家の財政はなかなか厳しく、ＣＤをじゃんじゃん購入できる状況ではないのだが、昭和３３年の録音なんてなかなか聴ける機会もないし、１枚目のライブ版にはMC（語り）も沢山入ってるようだし、このアルバムを手にしたからには買わないわけにはいかないような気がしてしまったのだった。
結果的には、１枚目は演奏と津軽弁の素朴で気取りのない優しい語り口のＭＣでライブの臨場感十分な内容だし、２枚目は民謡とあわせたときの三味線のまた少し違う表情や、お弟子さんにお稽古をつけるときの雰囲気、が伝わってくる内容だし、他をけずってでもこれを買って正解、だった。
竹山さんの重厚な演奏はもちろん素晴らしいけれど、語りも負けず劣らず素晴らしく、彼の三味線に対する思い入れ、音楽に対する情熱、彼の哲学、三味線奏者としての誇り、が十分すぎるほど伝わってくる。語りを聞くだけでも十分価値のある１枚だ。

収録曲はどれも津軽三味線ではおなじみのスタンダード・ナンバーだが、例えば有名な津軽じょんから節でも時代によって少しずつバージョンが違ったり、唄い手さんによっても雰囲気が変わったり、この２枚組にはじょんから節だけでも７曲、よされ節3曲、あいや節２曲が収録されていてそれぞれを聞き比べるのもおもしろい。

晩年は、時々東京のライブハウスでも演奏されていたそうだが、わたしは当時すでに東京在住だったにもかかわらず、残念ながら生の演奏を聴く機会は得られなかった。それだけにMC入りのライブ盤はとても貴重だ。

100年前の津軽では、三味線は目の不自由な物乞いが演奏する楽器とされ、竹山さんも多くの差別を受け大変なご苦労を重ねられたと聞く。竹山さん生誕から100年後の今日、津軽三味線がちょっとしたブームにすらなっているとは、ご本人は想像できただろうか。というより、竹山さんの演奏に感銘を受け、後に続く演奏者が全国各地に広がっていったからかもしれなく、竹山さんご自身がブームの発端だったのではないか、などと想像してみる。

ところで、残念なのは我が家のオーディオ。津軽三味線独特のビーンと空気を震わすような音が伝わってこない。このアルバムにふさわしい環境で聴いてみたい。（本郷　泉）