#  783

『スティーヴ・カーン/パーティング・ショット』
text by 稲岡邦弥


55 Records/バウンディ FNCJ-5545 2,500円(税込)

スティーヴ・カーン (ds,vo,guiro)
アンソニー・ジャクソン(el-b-g)
デニス・チェンバース (ds)
マノロ・バドレーナ(perc,vo)
マーク・キニョーネス(tinbal,bongo,perc)
ボビー・アジェンデ(conga)
ゲスト:
ロブ・マウンジー (key,vo)
アンドレス・ベイウーセイルト(vo)
タティアナ・パラ(vo)


1. クロノロジー
2. ロス・ガイテロス
3. チェンジ・エージェント
4. バイーヤ
5. マリア・ムランボ
6. インフルエンス・ペドラー
7. ホエン・シーズ・ノット・ヒア
8. ブルース・コノテーション
9. ザンクドヴィル
10. ジャスト・デザート

録音:ジェームズ・ファーバー@アヴァター・スタジオ NYC
2011年11月6~7日
マスタリング:グレッグ・カルビ
プロデューサー:スティーヴ・カーン

スティーヴ・カーンのコンテンポラリー・ラテン・ジャズが遂に頂点を極めた。
きめ細かく作り込まれた完成度の高いアルバムながら、何とゴージャスで心浮き立つ素晴らしい音楽だろう。
そもそもスティーヴが“ラテン”に染まったのは、50年代に全米で“チャチャ”(日本では“チャチャチャ”)が流行した時というから、まだほんの子供の頃だろう。自宅でカウベルなどを叩きながらチャチャのリズムにのせて自慢の喉を聞かせる父親(アメリカを代表する作詞家のひとり、サミー・カーン)の影響を終生引きずったことになる。スティーヴのキャリアの根幹はジャズとフュージョンだが、たとえば彼が制作するフュージョンのアルバムにもラテン・タッチの曲が必ず1、2曲収められていた。そのラテン嗜好がバンドの形となって現れたのが1981年に結成されたEyewitness(アイウィットネス)だった。スティーヴのギターにアンソニー・ジャクソンのベース・ギター、スティーヴ・ジョーダンのドラムスとマノロ・バドレーナのラテン・パーカッション。ジョーダンのドラムスがより音楽性にマッチするデニス・チェンバースに代わったものの、今回のアルバムまで不変のカルテットなのだ。そういう意味でこのアルバムはEyewitnessの結成30周年を記念するアルバムと位置付けて良いだろう。賞賛されるべきは、30年にわたってスティーヴのラテン音楽に対する理解度がますます深化し、アルバムごとにその情熱が音楽に反映され、遂にこのアルバムで究極の成果が披露されたという事実である。それは主として微妙なリズムの変化であり、パーカッションの使い方であり、ヴォイスの入り方などである。それらの重要な役を担うのがマスター・パーカッショニストのマーク・キニョネスとボビー・アジェンデのふたり。共演歴はすでに10年に及び、今やEyewitnessはセクステットに拡大されたといっても過言ではないだろう。この 10年は彼らふたりを音楽的に意のままに使いこなすための歳月だったといえる。
そしてこの5人が巡らす水も漏らさぬ精緻なリズムの上でスティーヴの浮遊感溢れるギターが舞う、というコントラストが彼らの音楽の醍醐味なのだ。ジャズ・ファンにはまずオーネット・コールマンの<クロノロジー>と<ブルース・コノテーション>、セロニアス・モンクの<バイーヤ>を聴いてもらいたい。耳に馴染んだこれらの曲がどれほどの新鮮さをもって耳に響くことか、目から鱗(うろこ)の思いをするに違いない。
なお、このEyewitnessというバンド・プロジェクトはまずトリオレコードが引き受け、徳間ジャパンに引き継がれ、今は55レコードが協力関係にある。30年間にわたって日本のレーベルがサポートしてきた。オリジナルはすべて日本であり、海外では日本の後にリリースされた。日本人が誇りにすべきプロジェクトである。
最後に。カヴァー・アートがジャン=ミシェル・フォロン亡き今、ミッシェル・グランジェに代わった。この人もフォロンと同じく、スティーヴのアイドルだという。まともにいけば来年のこのジャンルのグラミー賞に推挙されてしかるべきアルバムだ。(稲岡邦弥)

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