# 784
『Delfeayo Marsalis/Sweet Thunder』
text by 悠 雅彦
Troubadour Jass TJRO 92110
1. Such Sweet Thunder
2. Sonnet for Sister Kate
3. Sonnet to Hank Cinq
4. Half the Fun
5. Up & Down, Up & Down
6. Madness in Great Ones
7. The Star - Crossed Lovers
8. Sonnet in Search of A Moor
9. The Telecasters
10. Sonnet for Caesar
11. Lady Mac
12. Circle of Fourths
デルフィーヨ・マルサリス (tb)
ブランフォード・マルサリス ss/1、4、9、10 ts/2, 6
ヴィクター・ゴーインズ (ts&sopranino)、8、ss/5、11
マーク・シム ts/3、12
マーク・グロス as/1、2、3、4(as&ts)、5、6(as&ss)、7、8、9、10、11
ジェイソン・マーシャル bs/1、3、4、5、6、9、10、11 、b-cl/2、8
タイガー大越 tp/1、3、4、5、6、9、10、11
マルグリュー・ミラー p/1、7、9
ヴィクター・レッド・アトキンス p/3、4、5、10、11、12
レジナルド・ヴィール b/1
デイヴィッド・パルファス b/3、4、6、7、8、9、10
チャーネット・モフェット b/5、6、8、11、12
ウィナード・ハーパー ds/1、3、4、5、7、11
ジェイソン・マルサリス ds/2、6、8、9、10、12、per/4
Produced by Phil Schaap & Delfeayo Marsalis
Recorded at Legacy Studio, NYC, January 8-9, August 11-12,2008
この1作には幾つかの点で目をみはった。ひとつは、トロンボーン奏者としてのデルフィーヨ・マルサリスが彼自身の過去の演奏や彼に対する当方の認識を遥かに超える力量の持主で、同時に、作編曲者としての能力にも喫驚せざるを得なかったこと。たとえ、デューク・エリントンとビリー・ストレイホーンという輝かしいモデルがあることを前提にしても、である。実際、デルフィーヨってこんなに素晴らしいトロンボーン吹きだったの?と目から鱗が落ちる思いだった。演奏家というより、プロデューサーとしての活動に注目してきた、彼に対する私自身の不明を詫びなければならない。
2つ目は、過去に誰も再演したことがないエリントンの歴史的大曲を俎上にのせ、みずからの編曲による新しいアンサンブルによる再現を試みたこと。しかも、これは画期的成功だったといっても決して過言ではない再演集だ。
3つ目は我がタイガー大越をはじめとする13人に及ぶ面々が、エリントン・ミュージックの歴史を超えた魅力や美に深く共感し、デルフィーヨの意図を正確に理解した上で再演に臨んでいることだ。何度か聴き返したが、私の確信は変わらなかった。エリントンといえば、誰もがウィントンを想起するだろうが、エリントン音楽の魅力を現代に再現した実例としてデルフィーヨのこの1作は記念碑的な1作になったとさえ言いたい気がするくらいだ。
表題の『Sweet Thunder』は、デューク・エリントン・オーケストラが1957年に発表した『Such Sweet Thunder』(シェイクスピアの「真夏の夜の夢」出典。かくも心地よき雷鳴の意)のこと。56年から60年代初めにかけてエリントン楽団は新たな絶頂期を迎え、ビリー・ストレイホーンと組んで『ドラム・イズ・ア・ウーマン』『香水組曲』『ブラック、ブラウン&ベージュ』などの大作を発表して注目を集め、タイムの表紙をも飾った。56年夏にカナダで催されたシェイクスピア祭にゲスト出演したエリントンが完成間近だった『ドラム・イズ〜〜』に先駆け、同祭のディレクターから依頼を受けて発表した作品が『サッチ・スウィート・サンダー』で、この組曲が「シェイクスピア組曲」の別名で呼ばれる所以となった。翌57年にタウンホールで発表されたこの組曲は、氏が33年の初訪英時のシェイクスピアの演劇小屋訪問の折りに刺激を受けて温めていたアイディアを実現したもの。バンドもC.アンダーソンやJ.ホッジス以下最強のオールスター・バンドというにふさわしいエリントニアンを擁し、黄金期を再現しつつあったときだ。
『Sweet Thunder』の再演はデルフィーヨ自身がシェイクスピア祭の関係者に打診したことに始まったようだが、とにかく彼のオーケストレーションの素晴らしさには衝撃すらおぼえた。編成はオクテットが中心で、エリントンのビッグバンド編成を8人(オクテット)から4人(クァルテット)の小編成に構成し直した緻密な計算のもと、プロデューサーとしての手腕を発揮したメンバーの選定や彼らを適材適所に配したサウンド構成など、何やら自らのライフワークを思わせる意欲に満ちた完成度の高い充実作品となっているのだ。原曲から12曲をピックアップした本作のオープニングがエリントン楽団の演奏の焼き直しのように聴こえたものの、それはまさに一瞬で、聴き進むにつれてデルフィーヨ・マジックの妙に魅了され、アンサンブルの見事な演奏に圧倒されたというのが偽らざる感想。余白がないので数例をあげるにとどめるが、オリジナル演奏でも極めてモダンで、アンダーソンの超ハイノートが印象的だった(6)での、デルフィーヨとV.ゴーインズのソプラニーノのスリリングな掛け合い、J.ホッジスの哀感に満ちたアルトが忘れがたかった(7)でのM.グロスや、オリジナルではベースをフィーチュアした(8)でのデルフィーヨ、アトキンス、テナーのゴーインズのソロ、その他(4)でのブランフォードやタイガーなど演奏はどれも隙がなく、水際立っている。しかも全員が現代のエリントニアンとして颯爽としているのだ。エリントンが健在だったら拍手喝采するだろう。この点はいくら称えても称え切れない。中でも原曲ではクラーク・テリーが吹いた(5)でのゴーインズのソプラノ・ソロにはダウン。とにかく演奏家として、作編曲者として、デルフィーヨの力量は再評価されなければなるまい。奇しくも今年、NEA全米芸術基金のジャズ・マスターにマルサリス・ファミリーが選ばれたが、これは少なくとも今年屈指の1作であることは間違いなく、彼には2重の喜びとなるだろう。(2011年4月18日記/悠 雅彦)
追悼特集
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#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
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