#  785

『マグナス・ヨルト・トリオ/ガーシュイン』
text by 稲岡邦弥


Cloud/バウンディ DDCJ-4003 2,625円(税込)

マグナス・ヨルト(p)
ペーター・エルド(b)
スノーレ・キルク(ds)

ストリング・カルテット

1. ベスよ、お前は俺のもの(ベス、ユー・イズ・マイ・ウーマン・ナウ)
2. アイ・ガット・リズム
3. イット・エイント・ネセサリリー・ソー
4. やさしい伴侶を(サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー)
5. マイ・マンズ・ゴーン・ナウ
6. スワニー
7. 魅惑のリズム(ファシネイティング・リズム)
8. 誰も奪えぬこの思い(ゼイ・カント・テイク・ザット・アウェイ・フロム・ミー)
9. うまくやれたら(ナイス・ワーク・イフ・ユー・キャン・ゲット・イット)

録音:ビョルン・ギーシン@Bach Recording, Copenhagen, March 2010 &
Village Recording, Vanlose, October 2010
プロデューサー:マグナス・ヨルト

美しく、親しみやすいメロディをたくさん残したジョージ・ガーシュイン(1898.9.26 - 1937.7.11)は、ピアニストやヴォーカリスト(兄のアイラの作詞の功績もあり)にとって一度は挑戦してみたいコンポーザーでこれまでに多くの優れた録音が残されてきた。
ティン・パン・アレイ的ヒット曲に限らず、「ポーギーとベス」など現在でも上演される機会の多いミュージカルから、「ラプソディ・イン・ブルー」や「パリのアメリカ人」などクラシック作品まで手がけ、ジャンルを問わず多くのファンに愛好されていることは良く知られている。
このアルバムはガーシュインのそんな特徴をよく反映しており、ジャズ・ファンに限らず幅広い音楽ファンにアピールする内容を持っている。とくに、ストリング・カルテットの使い方がとても巧みでガーシュイン作品集の傑作の1枚に加えられることになるだろう。
ピアノのシングルトーンの連打にストリングスが絡んでくるイントロから、充分レイドバックしたピアノとオブリガード的に処理されたストリングスがメランコリックな雰囲気を醸し出し、1曲目からリスナーはすっかりガーシュインの世界に取り込まれる。よくスイングするピアノ・トリオによる<アイ・ガット・リズム>を経て、トゥッティによるいわくありげなイントロからストライド・スタイルのピアノが提示する<イット・エイント・エイント・ネセサリリー・ソー>のテーマへと流れるその展開はまるで組曲を聴いているような構成だ。CMでもお馴染みになった<やさしい伴侶を>にはヴァースを付けるなど、なかなか一筋縄ではいかない演出も心憎い。<マイ・マンズ・ゴーン・ナウ>ではピアノとストリングスが協奏的に渡り合い単なるバラードには終わらせない。それはトリオによるスワニーを挟んだ<魅惑のリズム>からクロージングの、<うまくやれたら>まで引き継がれ、快い緊張感が途切れることはない。
マグナス・ヨルトは、スウェーデンの生まれだが現在は国際都市コペンハーヘンに活動拠点を置く新進ピアニスト。2作のアルバムと2度の来日で日本でもしっかり地歩を固めつつある。それにしても、3作目でウィズ・ストリングスのアルバムを制作させるエグゼクティヴ・プロデューサー米山葉子のヨルトへの惚れ込みようは見上げたものだ。ヨルトもしっかりその熱意に応えて余りある。
「ガーシュイン」というシンプルなタイトルは、ピアノ・トリオとストリング・カルテットでジョージ・ガーシュインの世界を組曲風に描き尽くしたという彼らの自負の現れ、とみた。(稲岡邦弥)

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.