#  787

『Nicole Mitchell’s Sonic Projections/Emerald Hills』
text by 望月由美


ROGUEART ROG-0027

Nicolle Mitchell(fl,alto-fl,piccolo,vo)
Craig Taborn(p)
David Boykin(ts)
Chad Taylor(ds,per)

1. Visitations(Nicole Mitchell)
2. Ritual and Rebellion(Nicole Mitchell)
3. Chocolate Chips(Nicole Mitchell)
4. Wild Life(Nicole Mitchell&David Boykin)
5. Wishes(Nicole Mitchell)
6. Emerald Hills(Nicole Mitchell)
7. Surface of Syrius(David Boykin&Craig Taborn)
8. Affirmations(Nicole Mitchell)
9. Peace(Nicole Mitchell)

プロデューサー:Michel Dorbon
録音:John McEntire@Soma Electronic Music Studio,Chicago、2009年5月4日、5日

 ニコール・ミッチェルの新しいユニット“Sonic Projections”のシカゴ録音。フルートとテナー・サックス、ピアノ、ドラムというベース・レス2管編成のカルテットである。演奏されている曲のタイトルからして後期コルトレーンを想いおこさせるが、実際の演奏もコルトレーンのイメージを色濃く反映した内容になっている。一曲を除いてすべてニコールのオリジナルであるが、それぞれが一幕物の戯曲を集めたかのような変化に富んだ構成がいい。
 ニコールの2005年作品『Indigo Trio』(Greenleaf Music)では、ハミッド・ドレイク(ds)の奔放なドラムに触発されてか、かなりアグレッシヴなアフロ色の強い印象を受けたニコールだが、本作『Emerald Hills』は色々な仕掛け、演出を施してはいるものの、難解さはなくオーソドックスなフリー・ジャズといった趣で、フリー全盛期の懐かしささえも想いおこさせてくれる作品である。
 例えば(1)<Visitations>では冒頭からドビュッシーのような幽玄な空間を描き出し、ニコールのフルートがスピリチュアルなソロをとる。そして、そこにデヴィッド・ボイキンのテナーが絡んでコレクティヴな即興の世界が展開するあたり、コルトレーンとファラオ・サンダースを彷彿とさせる。(2)<Ritual and Rebellion>ではマレットの連打とピアノ・ソロに導かれて吟じるニコールのポエトリー・リーディングはフルートの過激さとは対照的な可愛らしい声で面白い。また(3)<Chocolate Chips>ではチャド・テイラー(ds)がフルート〜テナー〜ピアノと順次デュオを行い個々のパーソナリティーを際立たせている。(4)<Wild Life>ではニコールとデヴィッド・ボイキン2管によるデュオでボイキンが重厚なサウンドで存在感を発揮する。(5)<Wishes>ではムーディーなバラード仕立てといった具合である。また(8)<Affirmations>は節目、節目にニコールの唄を組み入れ、その間を各人がソロを紡いで行くといった組曲風の大曲で聴き応えがある。
 ジャズでフルートを専門とするミュージシャンは意外と少ない。ハービー・マンにしてもバド・シャンクにしても、そのほかルー・タバキン、エリック・ドルフィー、バディ・コレット、フランク・ウエス、ローランド・カーク、ポール・ホーン等々のフルートの名人も皆サックスとの持ち替えである。フルート一本となるとジェレミー・スタイグ、ジェームス・ニュートン、ヒュ−バート・ロウズ、クリス・ヒンゼあたりしか頭に浮かばない。ニコールはジェームス・ニュートンに触発されてフルートの道に進んだというが、奇をてらったところのない綺麗なフルートを吹く数少ないフルート専門の女性である。
 ニコールは1995年にシカゴのAACMに加入しジョージ・ルイスやビル・ディクソン、ムハール・リチャード・エイブラムス、アンソニー・ブラクストン等と共演している。昨2010年11月のAACM設立45周年祝賀フェスティヴァルではロスコー・ミッチェルのグループに参加するなど、生粋のシカゴ派である。
 ピアノのクレイグ・テイボーンは1993年以降ジェームス・カーター(sax)のグループでの活動で注目を浴びたが、ロスコー・ミッチェル (sax)のECM作などにも顔を連ねている。フリー系としては、派手なアクションの少ないタッチの綺麗なピアノという印象を持っているが、ここでの演奏もグループのコンセプションを意識した端正なプレイが際立っている。近々、ECMからソロ・アルバムをリリースするというニュースも伝わってきているがこれからの活躍が期待される。 
 テナーのデヴィッド・ボイキンはこれぞAACMという、フリーそのもののプレイで音に存在感がある。ただ、根底にはコルトレーンへの憧憬、敬意というものが感じられ、それがニコールとの演奏の中にも自然と表出している。AACMの人たちはコルトレーンを尊敬している人が多く、ジョセフ・ジャーマンも来日時コルトレーンへの思いをなんども繰り返し話をしてくれたし、ロスコー・ミッチェルもまた、コルトレーンを目指したミュージシャンの一人である。
 このアルバムをリリースした“ROGUEART”はフランスのレーベルで主にフリー系のアルバムを多数発表しており、AACM系の作品も多い。白地にアルバム・タイトルを朱色、メンバー等のクレジットは黒文字というデザインで全作品を統一しており、ショップの店頭にならぶと一目で“ROGUEART”と分かる。文字だけのジャケットは他にも色々あるがここまで徹底している例は珍しい。ニコールを機に“ROGUEART”を探索するのも面白いかもしれない。 (2011年5月 望月由美)

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