#  789

『ジョー・ロヴァーノ・アス・ファイヴ/バード・ソングス』
text by 悠 雅彦


BlueNote/EMIミュージックジャパン
TOCJ-90050
¥2,500(税込/HQCD)

ジョー・ロヴァーノ(tenor saxophone, G mezzo soprano saxophone, la sax straight alto, wooden tenor saxophone mouthpiece, aulochrome, borgani saxophones)
ジェームス・ウェイドマン (piano)
エスペランサ・スポルディング (bass)
オーティス・ブラウンV (drums)
フランシスコ・メラ (drums)

1. パスポート
2. ドナ・リー
3. バルバドス
4. ムース・ザ・ムーチェ
5. ラヴァー・マン
6. バードヤード
7. ココ
8. ブルース・コラージュ
9. デクステリティ
10. デューイ・スクエア
11. ヤードバード組曲

録音:ジェームス・ファーバー、2010年9月7日、8日、NYC

 ジョー・ロヴァーノの22枚目に当たるブルーノート作品。実は22枚目と知っていささか驚いた。ブルーノートに吹き込んだ過去21枚もの作品をすべて聴いたわけではない私にとって、ブルーノートがこれほどの数のリーダー作を1人のアーティストのために長い歳月をかけて制作しつづけることじたいが驚きだと、あらためてジョー・ロヴァーノというミュージシャンの力を再検証したい気持になった。
 だが、本当に驚いたというのか感心したのは、この1作に賭けたロヴァーノの思いの深さみたいのものだった。この新作はタイトル通り、テナー奏者の彼がアルト奏者というよりバップの革命児チャーリー・パーカーの演奏曲(愛奏曲)を自身のグループ(アス・ファイヴ)で吹き込んだものだ。彼はしかし、単にジャズの演奏素材としてパーカー作品を集めたわけではなく、パーカーが現代のミュージシャンだったらどんなコンセプトとアイディアを持ち込むだろうかと考える中で、パーカーが演奏した楽曲を再構成し、過去にコールマン・ホーキンスやジョン・コルトレーンを追究して学んだ彼なりの視点を持ち込んだのである。ロヴァーノの父トニーも生地のクリーブランドでは知られたテナー奏者で、レスター・ヤングやソニー・スティットらが当地を訪れれば嬉々としてセッションに興じたというから、それを目の当たりにして育ったロヴァーノにはパーカーという演奏家のルーツ、異質のジャンルに対する意識、ジャズの革新的インプロヴァイザーとしてのコンセプトと演奏スタイルに向けた格別の思いがあったというべきだろう。ロヴァーノのホーキンスやコルトレーンへの深い敬愛はよく知られるが(個人的には彼のスタイルに大きな影響を与えたのはレスター・ヤングではないかと思っている)、パーカーへの秘めた思いもテナーの巨人たちに劣らぬ熱いものだったと本作での演奏から教えられた。パーカーが49年にクレフへ吹き込んだ「パスポート」からスタートし、46年から48年にかけてダイアルやサヴォイに残した全部で10曲と、彼がバードに捧げた「バードヤード」で構成した本作は、それだけ彼にとっても思い入れの強い1作になったと言っていいと思う。
 だが何といっても、耳を奪うのはここでのロヴァーノ独自の料理法だ。たとえば、劈頭の「パスポート」。ソロ・パートで彼は提示したテンポで1コーラス、終わるや今度は倍テンポで1コーラス、さらにこのパターンを繰り返す。つまり全4コーラス。次のピアノのウェイドマンも同様の形で2コーラス。こうした意表を突く彼のパーカー再解釈・構成はほぼすべての楽曲に及んでいるので、ここで語り尽くすのは不可能だが、「ドナ・リー」こそはその最適の例とだけ言っておこう。彼は旋律も和声も解体し、「インディアナ」のコード進行から解放したバラードとして演奏している。画期的かどうかを問われれば今は首を捻るが、繰り返して聴けば意外な発見がきっと待ち受けているだろうと確信したくなる。それだけの得体しれぬ魅力があるのだ。
 表記の記載のように、ロヴァーノは本作でテナーのほかに数種のサックスを用いている。「ラヴァー・マン」ではメゾ・ソプラノ・サックスを、「バードヤード」では同時に2つの音が出せるソプラノを2本並べたようなリード楽器 を吹き、面白い効果をあげている。オーロクロームというこのベルギー生まれの楽器については、以前に巻頭文で紹介したマイケル・シーゲル著の『サキソフォン物語』に詳しく紹介されているhttp://www.jazztokyo.com/column/editrial01/v37_index.html)。そこでロヴァーノが「新たな千年の幕開きを告げる響き」と賞賛した変わり種のサックスこそオーロクロームで、キー群は2連の楽器の真中に上下2つに分かれた形で配置されているとある。これを制作したフランソワ・ルイはショーターやリーブマンら多くのプレイヤーが愛用する木製の精緻なマウスピース(表記記載)の生みの親でもある。ちなみに、現在ではサックスを3本つないだ変わり種が登場しているとか。ここでオーロクロームはなるほど面白い音をだしているが、1分47秒の短い演奏なので真価は判然とせず、評価は控えることにする。
 同様に短い演奏でも「ブルース・コラージュ」の方は、「カーヴィン・ザ・バード」「バード・フェザーズ」「ブルームディド」の3旋律をテナー、ピアノ、ベースの3者が同時に奏するアイディアが秀抜。堪能した。
 ロヴァーノの“アス・ファイヴ”はツイン・ドラムスが柱のグループだが、2人のアプローチが繊細かつ知的で、我先にといったプレイはおろかどの演奏でも破綻がない。先頃グラミー賞に輝いたベースのエスペランサはみずからの野心的な『チェンバー・ミュージック・ソサイエティ』とは一転、ここでは堅実なベーシストとしてベース本来の役割を活きいきと果たしており、可憐さを超えた伸びやかな姿がすこぶる印象的である。(2011年5月10日記/悠 雅彦)

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