#  793

『John Taylor/Requiem For Dreamer』
text by 今村健一


CAM JAZZ

John Taylor (p)
Julian Arguelles (ts, ss)
Palle Danielsson (b)
Martin France (ds)

1. Requiem for a Dreamer
2. Somebody I used to be
3. Ice 9
4. Unstruck in Time
5. So it Goes
6. Calypso 53
7. Requiem 2

録音: December 2008 in Ludwigsburg (Germany) at Bauer Studio
エンジニア: Johannes Wohlleben

 東日本大震災を挟んで、いつもの遅筆ぶりに更に拍車がかかってしまっていた。あらゆる仕事のマスタープランが大幅に書き換わって右往左往していたこともあるが、よく“安易な癒しに流されることなく…”という表現を辛口気取りで使ってきたような自分にとって、逆に「審美的な厳しさゆえに安易な癒しを許さない」美しい音楽に囲まれている生活がどういった意味を持つのか、立ち止まって少し考えてみたくなってしまったからだ。

 そんな3.11以降の音楽との距離感でも懐にすっと入り込んでくるジャズは何枚かあった。うち一枚が、このジョン・テイラーの最新作だ。07年に逝去した作家カート・ヴォネガットに捧げられており、レパートリーはヴォネガット作品にインスパイアされたテイラーの描き下ろしが並ぶ。

 購読されている方々の文化レベルの高いJazzTokyoでヴォネガットについて掘り下げるのは馬脚をあらわすことになるので避けたいが、第二次大戦時にアメリカ人捕虜としてドレスデン爆撃の中、屠畜場を改装した収容所で過ごした経験からヴォネガットが得た人間界を俯瞰するようなシニカルな作家目線、やるせなさ、ペーソス、そして豊かなレトリックとユーモアは、この音楽に確実に影を落としている。

 ここでのジョン・テイラーの作風は、彼のキャリアの中でも少々異色だ。若かりし日のナイフの如き鋭さとも、ケニー・ホイーラーやノーマ・ウインストンらと絡んだ時の様なミニマルな静謐さとも違う。パレ・ダニエルソンとマーティン・フランスの柔軟なリズム隊に支えられ、テイラーのピアノは滋味深いメロディを雄弁に語り、ジュリアン・アーギュロスのサックスと自由なタイム感のアンサンブルを織りなす(彼らは昨年チェルトナムのフェスでも息の合ったデュオを聴かせたらしい)。テイラー独特のハーモニーの重力を感じさせない巧みなプレイは従来通りだが、ここでのアグレッシヴさと厚みのあるヒューマニティーを感じさせる音楽は、テイラーが次のステージに進もうとしていることを感じさせる。ヴォネガットという題材の選び方が功を奏したのだろう。

 3曲目の「Ice9」とはヴォネガットの「猫のゆりかご」にでてくる人類を滅ぼす可能性を秘めた氷の結晶形の名称で、グレイトフル・デッドも自分たちの音楽出版社名に引用しているが、おそらく核のメタファーでもある。モンクの「パノニカ」の現代版とでもいうべき絶望とやさしさが入り混じったその曲の何とも言えないムードは、本作の最も美しい瞬間だ。期せずして時代のムードとシンクロした部分すら、本作の美点になっている。(今村健一)

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