#  797

『ジェリー・マリガン・セクステット/ライヴ・イン・アムステルダム1956』
text by 望月由美


Music Center The Netherlands/55 RECORDS
FNCJ-5608 1,800円(税込)

ジェリー・マリガン(bs,p)
ジョン・アードリー(tp)
ボブ・ブルックマイヤー(v-tb)
ズート・シムズ(ts)
ビル・クロウ(b)
デイヴ・ベイリー(ds)

1. イントロダクション・バイ・ジェリー・マリガン
2. マッド・バグ(Jerry Lloyd)
3. ナイツ・アット・ザ・ターンテーブル〜オンテット(G.Mulligan)
4. エイント・イット・ザ・トゥルース(C.Basie、B.Harding)
5. ライン・フォー・ライオンズ(G.Mulligan)
6. ディマントン(J.Eardly)/アッター・ケイオス(G.Mulligan)
7. ブロードウェイ(B.Bird,T.Mcrae,Sir Henry Joseph Wood)
8. スウィート・アンド・ラヴリー(G.Arnheim,J.LeMare,H.Tobias)
9. ザ・レッド・ドア(G.Mulligan、Z.Sims)
10. アイ・メイ・ビー・ロング(H.Ruskin,H.Sullivan)
11. マイ・ファニー・ヴァレンタイン(R.Rodgers,L.Hart)
12. ウェスト・ウッドウォーク(G・マリガン)
13. アイム・ビギニング・トゥ・シー・ザ・ライト(D.Ellington、D.George,J.Hodges,H.James)
14. スターズ・アンド・ストライヴス・フォー・エヴァー(J.P.Sousal)
15. ウェスタン・リユニオン(G.Mulligan)

プロデューサー:Ditmer Weetman & Bert Vuijsje)
録音:1956年4月7日 
場所:アムステルダム、コンセルトヘボウ 

 1956年の2月ジェリー・マリガン・セクステットの一行はイタリアの客船『アンドレア・ドリア号』に乗り込んだ。セクステットにとって最初のヨーロッパ・ツアーの船出であり、船ではズートとビル・クロウがピンポンに興じるなどリラックスした旅の始まりであった。一行はナポリを皮切りにイタリア各地を演奏したあとフランスに渡りパリのオリンピア劇場やリヨンでコンサート。その後スイス、ベルギー等ヨーロッパ各地を廻り4月に『クイーン・エリザベス号』でニューヨークに戻るという3ヶ月に及ぶ優雅なコンサート・ツアーであった。本アルバムはその長いツアーの終盤にさしかかった4月7日、オランダ、アムステルダムのコンセルトヘボウでのコンサートの模様を収録したいわゆる発掘音源である。
 バリトンとテナーの2サックスにバルヴ・トロンボーンとトランペットという4管にベース、ドラムズという編成はマリガンの輝かしいキャリアの中でもアンサンブルとソロとのせめぎ合いが絶妙のバランスで拮抗している最もマリガンらしさの出た編成である。オリジナル・カルテットの瀟洒なインテリジェンスとコンサート・ジャズ・バンドのゴージャスなダイナミズムの両方を兼ね備えているのがこのセクステット。
 一言で云ってしまうとジャズの持つ粋と洗練の極致、洒落のエッセンスとユーモアが詰まっている点で他に例がないユニットであり、マリガンの長いキャリアの中でも最もマリガンらしさが発揮されている。
 アルバムはコンサートの模様をほぼ再現するような形で編集されており、スタートはメンバーの音合わせからメンバー間の談笑、そしてマリガンのアナウンスで始まる。(2)<マッド・バグ>でいきなり快速調のモダン・スイング。ズートが名調子でソロをとり、流れを設定する、流石ズートである。ズートのタイム感覚はいつ聴いてもすばらしい、ズートの身体の中にはいつもスイングが満ち溢れていてそれがポロポロこぼれてくるのである。こうなればあとはフロント4人のソロの応酬、バックのリフの格好よさで一気に会場が盛り上がる。ウォーミング・アップがすんだところでマリガンがピアノに座り(3)<ナイツ・アット・ザ・ターンテーブル>を弾き始めるが中途で<オンテット>に切り替わる。マリガンのピアノはモンクに通じる朴訥とした味わいがある。全編にわたって息のあったミュージシャン達の楽しいアンサンブルが繰り広げられており、コンセルトヘボウのうちとけた雰囲気が55年と云う時を超えて伝わってくる。(9)<ザ・レッド・ドア>と(15)<ウェスタン・リユニオン>の2曲は1954年の12月、カリフォルニアのフーヴァー・ハイスクールで行われた「ジャズ・ゴーズ・トゥー・ハイスクール」と銘打ったコンサートでマリガン・カルテットにズート(ts)とブルックマイヤー(tb)をゲストとしてステージに迎え入れた際に初演された曲でマリガンとズートがカウンターブローの応酬で大熱演。このときの演奏がすっかり気に入ったマリガンは1955年からセクステットとしてレギュラー活動することになった記念すべき曲である。本アルバムのオリジナル・タイトルも『ウエスタン・ユニオン』と表記されている。マリガンとズートは気の合う大親友でまだ売り出し前の若い頃から時間が合えばジャムに興じていたそうだが、二人の手際の良いリフ、そしてスインギーな歌心は何時聴いても心を和ませてくれる。ブルックマイヤーもヒートアップしてゆく二人の間に割って入りクールな味わいで脇を固めるという妙技を発揮している。そしてビル・クロウ(b)とデイヴ・ベイリー(ds)のサトルでスインギーなリズムもフロントの4人により自由を与えており、6人全員の仲のよさが音に現れている。マリガン・セクステットはマーキュリー/エマーシーにレコーデイングを始め、1955年の9月から56年の9月までに『プレゼンティング・ザ・ジェリー・マリガン』『ア・プロフィール・オブ・ジェリー・マリガン』『メインストリーム・オブ・ジャズ』の3作、後にオルタネート・テイクを集めた『メインストリームVol.2,Vol.3』を含めると5作を録音しているが、ライヴ盤は前述のフーヴァー・ハイスクールでの『カリフォルニア・コンサーツ』(Pacific Jazz)一枚のみで、活動を始めて1年半というセクステットの円熟した黄金期のコンサートの録音が発掘されたのは大変うれしい出来事である。
 本アルバムは「J.A.T.C./ジャズ・アット・ザ・コンセルトヘボウ」シリーズの第一弾としてアムステルダムのコンセルトヘボウで行われたコンサートの音源をCD化したものでJ.J.ジョンソン5やサラ・ヴォーンも同時にリリースされている。原盤はオランダのMCN(Music Center The Netherlands)がDutch Jazz Archive Seriesとして発掘したもので他にもミシャ・メンゲルベルクやリタ・ライス等珍しい音源がカタログ化されている。これからの55RECORDSからの国内リリースに期待したい。 (2011年6月 望月由美) 

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