#  799

『程嶋日奈子/Deep Dive』
text by 稲岡邦弥


T-Toc/Candeza
CADE-0001 2,800円(税込)

程嶋日奈子 (b)
横田寛之 (as,ss)
増田実裕 (p)
岡部朋幸 (ds)

1. Gibraltar(Freddie Hubbard)
2. 雪明かりの夜
3. 赤土の道と旅の記憶
4. 摩天楼の星
5. DEEP DIVE
6. さくら
7. Midnight Walk
8. Sincerely Yours
9. Beautiful Clear
10. Windows(Chick Corea)
11. 空は海のもの(Hiroyuki Yokota)
作曲:Hinako Hodoshima

録音/ミックス/マスタリング:金野貴明 @T-Tocスタジオ、横浜、3/25-26, 2011

 何人かの女流ベーシストを耳にする機会が続いた。まず、エスペランサ・スポルディング。スケールの大きな、ベーシストというよりも音楽人というべき女性で、あれよあれよという間にグラミー賞の最優秀新人賞に輝いた。昨年は、テリ・リン・キャリントンのプロジェクトと自身のグループでブルーノート東京と東京JAZZに出演したので、直接見聞したファンも多いだろう。アルバム『エスペランサ』が話題になった。佐藤えりか。国立音大OGで、フリー系のミュージシャンとの共演が多い。スガダイロー(p)や纐纈雅代(as)らとのユニットで制作した『秘宝感!』というCDを聴いた。小柄な体躯を使って芯のある音で力強いビートを繰り出す。インプロ系ミュージシャンにスポットを当てたフリー・マガジン『Japanese Beat』の編集長でもある。白楽のカフェ・バー「ビッチェズ・ブリュー」で聴いたパール・アレクサンダー。舞踊や演劇との共演のチャンスを求めて滞日中のアメリカのベーシスト。古谷暢康とのデュオでは繊細でニュアンスに富んだ音楽を聴かせ、後半では楽器をフロアに寝かせてコントラバスをパーカッションのように扱ってみせた。NYに目を転じると植田典子がいる。井上智(g)や百々徹(p)などNY の住人が制作するCDに彼女が登場することが多い。山中千尋(p)らと女性だけのビッグバンド「DIVA」に参加している。
 そういう流れの中で聴いたのが程嶋日奈子の新作CDである。メロディを吹く横田のアルトをダンサブルなアフロ・キューバンのリズムで導き出す。フレディ・ハバードの<ジブラルタル>。程嶋と岡部(ds)の弾けるビートを得て思いのたけをソロで吐露しつくすのは横田(as)と増田(p)。横田のアルトが破調寸前、フリーキーに哭く場面も。ジャズ系DJに人気の<ジブラルタル>をオープナーに持ってくるところが程嶋の立ち位置を示している。資料によると4人は年齢が接近する“アラサー”。程嶋はクラシックとジャズを習得、ビッグバンドからコンボ、クラシックからポップスまでボーダーレスにこなし、すでに後進の指導にもあたっているというマルチ・タレント(ジャズ・トランペッターの市原ひかりと同い年。エスペランサとは2つ違いという)。サックスの横田もローカルとはいえ複数のジャズ・フェスで受賞、プログラマーを兼業しているという。増田はクラシックを基礎に、哲学科を選んだ大学でジャズを独学で修めた。岡部も早稲田からミシガン大学に留学、NYへの移住を経て帰国、ミシガンではロドニー・ウィタカーのアシスタントを務めたというキャリアの持ち主。彼らのキャリアをさらったのは、さまざまな人生経験が裏打ちとなりしっかり地に着いた演奏が展開されていることに納得したからだ。自信に溢れ淀むところがない、と言い換えても良いだろう。同窓が取り持つ仲良しグループではなく、実力を求め合って組まれたカルテットに違いない。2曲目以降のJ-ポップ風タイトル曲は程嶋の自作である。ファンク、ブルース、バラード、さまざまに表情が変わり飽きさせることがない。ワン・ホーンの単調さを避けるために、1曲毎にピアノ・トリオが挿入される工夫も。随所で聴かれる各人のソロはどれも新鮮で素晴らしい。チック・コリアの<ウィンドウズ>で締められたあと、ボーナス・トラック的にベースとソプラノのデュオで演奏されるのは横田のオリジナル。
 隅々まで神経の行き届いた作りが彼らの演奏とともにとても清々しい。
 なお、Candeza(カデンツァ)は、T-Tocレコード内に新設されたレーベルで、優秀な新人を録音からディストリビュートまでサポートするという。我と思わん者はドアをノックしてみることをお薦めする。叩けよ、さらば開かれん。(稲岡邦弥) 

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NEW1.31 '16

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