#  800

『Ricardo Villalobos+Max Loderbauer/Re:ECM』
text by 今村健一


ECM2211/12

Ricardo Villalobos (electronics)
Max Loderbauer (electronics)

Disc:1
1. Reblop (ECM 2118 Christian Wallumrod Ensemble)
2. Recat (ECM 2005 Christian Wallumrod Ensemble)
3. Resvete (ECM 1763Alexander Knaifel)
4. Retimeless (ECM 1047 John Abercrombie)
5. Reemergence (ECM 1312Miroslav Vitous)
6. Reblazhenstva (ECM 1957Alexander Knaifel)
7. Reannounce (ECM 1954Louis Scravis)
8. Recurrence (ECM 2004Wolfert Breder0de Quartet)
9. Requote (ECM 2118 Christian Wallumrod Ensemble)

Disc:2
1. Replob (ECM 2118 Christian Wallumrod Ensemble)
2. Reshadub (ECM 1681 Paul Giger)
3. Rebird (ECM 1921 Rava/Bollani/Motian)
4. Retikhiy (ECM 1763 Alexander Knaifel)
5. Rekondakion (ECM 1655/56Arvo Part)
6. Rensenada (ECM 1043 Bennie Maupin)
7. Resole (ECM 1763/1731 Alexander Knaifel)
8. Redetach (ECM 2005 Christian Wallumrod Ensemble)

Sound structures by Ricardo Villalobos and Max Loderbauer
Developed and produced at Laika Studio, Berlin, Autumn 2009
Pre-mastering: Rashad Becker
Mastering: Manfred Eicher and Christoph Stickel
Original productions produced by Manfred Eicher

 ECM音源を素材とするこの2枚組リミックス・アルバムに関する情報を最初にWebで見たとき、正規リリースの作品とは思わなかった。というのも、過去に似たような企画をミュンヘンのECMオフィスにオファーして断られたケースを見たり聞いたりしたことがあるからだ。リミックスどころかコンピ編纂やリマスターでも、オーナーであるマンフレート・アイヒャーの厳しい審美眼をパスする必要がある。「ECMのアルバムはそれぞれ完結したストーリーを持つ。その文脈を壊す編集盤はなるべく出したくはないし、未発表ボーナス・トラックもECMには必要ない」という持論を持つアイヒャー。だから(幾つかの例外はあるが)生半可な企画は基本、許可されない。

 だが、“ECM2211/12”というナンバーを振られた『Re:ECM』は、紛れもなく本物だ。クリスチャン・ヴァルムー、アレクサンダー・クナイフェル、アルヴォ・ペルト、ルイ・スクラヴィス、パウル・ギーガーを始め15枚以上のECMカタログから音源が引用されている。

 ところで、便宜上“リミックス・アルバム”と書いたが、リミックスという手垢がついた言葉を使うのが躊躇(ためら)われるほど、本作のサウンドの組み立て方はユニークだ。

 生楽器の豊かな響きと、ミキシング・ボードに直結された自然界に存在しない帯域のノイズ。心を揺さぶる流麗なメロディと、脳に刺さる寸断されたデジタル信号。雄弁な寡黙さと、つんのめるリズム。ダイナミック・レンジの両極をなす要素がコントラストを成すのではなく、オーガニックとデジタル両側のサイドから補完し合い、一つの世界を構築していく。もともと音の奥行きや隙間、静寂などを効果的に使うECMのサウンド・デザインの特性を十分に理解した上で、原曲とエレクトロニクスによる追加音源が丁寧に折り重ねられているのだ。

 『Re:ECM』を制作したのは、リカルド・ヴィラロボスとマックス・ローダーバウアー。ヴィラロボスは(本人はこの呼称を嫌っているらしいが)グリッチ/ミニマル・ハウス系のトラック・メーカーで、荒涼としたデジタル・ノイズを繊細に重ねていくダンス・ミュージックを得意としている。ローダーバウアーはサン・エレクトリックやモーリッツ・フォン・オズワルド・トリオ等のユニットで活躍してきたベルリン電子音楽シーンの古参で、プログラミングされた音にモジュラー・シンセサイザーによる即興を掛け合わせる作風で知られている。今回の企画は、ヴィラロボスが実際にクラブでペルト等のECM作品を他のデジタル・サウンドとライヴ・ミックスしたところ、打ち込みのリズムだけでは得られないエモーションが曲に宿ることを発見したことがスタートとなった。

 彼らはCDプレイヤーをサウンド・ボードに繋ぎ、デジタル・エフェクトで変調やループをさせながら、シンセサイザー等をアドリブで重ねて本作を作り上げた。しかしブックレットを見ると、制作にあたりECMはマルチ・テープを貸与しなかったらしい。実はその事実が、本作がディープなテクノ作品にも拘らず“ECMらしく”聴こえる鍵となっている。特定の楽器を抜き出して使うことが出来なかったが故に彼らは楽器のソロ演奏がフィーチャーされた作品を中心にセレクトし、その質感や音圧、音のパースペクティヴ、間合いなどECM作品の特性を考慮しながら構築することを余儀なくされたのだという。なので、原曲の面影を残していないトラックですら、すべて聴こえてくる音はオリジナルのECMアルバムの何らかのクセを拡張したキメラ的な存在なのだ。

 過去のECM作品に対する敬愛は強いが、実験と冒険に溢れている。原曲に寄り添いすぎることなく、しっかりと時代に対応した独自のストーリーがここにはある。それこそが、アイヒャー自身がマスタリングを手掛け、本プロジェクトに対しECM正規のカタログ・ナンバーを付与した理由だと思う。(今村健一)

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