# 804
『山口真文/イヴニング』
text by 稲岡邦弥
山口真文が帰ってきた。颯爽と。13年ぶりの新作だそうだが、彼はそういう人物だ。がつがつと先を急ぐこともなければ、戦略を練ってそれに従って行動を起こすこともない。ひたすら時が来るのを待つ。時が熟し自らの内部から衝動が沸き起こるのを待ってことを進める。
山口真文。昭和21年、佐賀県生まれ。慶応KMP出身。プロ入り後しばらくジョージ大塚の薫陶を受け、実力を養成する。フュージョン全盛時は「プレイヤーズ」の主軸として活躍。菊地雅章がNYでプロデュースしたジョージ大塚の代表作『マラカイボ・コーンポーン』(TRIO)の日本展開用のグループ「マラカイボ」に起用され、ミロスラフ・ヴィトウスbやケニー・カークランドpと交わる。ヴィトウスにケニー・カークランドp、トニー・ウィリアムスdsを加えたカルテットで『MABUMI』 (TRIO, 1981)を制作、世間を驚かせる。プロデューサーはジョージ大塚。
今回、彼を突き動かしたのは片倉真由子pの存在と小松伸之dsの成長だという。
片倉は、僕の記憶に誤りがなければ、数年前ジュリアード音楽院がジャズ・オーケストラを率いて来日した際、ピアノに起用された逸材。このアルバムでも終始しっかり地に足の付いた演奏で見事に真文氏の女房役を果たしている。小松は初めて耳にするドラムだがキレのいいセンスに溢れたドラミングを披露している。
冒頭、小松のシンバルに導かれて登場するのはソプラノサックス。意表を衝かれ驚くが、真文氏のソプラノは70年代の使い初めからその音の肌理の細かさと伸びで定評があったことを思い出し納得。ソプラノ、ピアノ、ベース、ドラムスとソロが一巡するが、最後の一音が消えた時点でこのカルテットの安定したレヴェルの高さを確認、気分よく彼らの世界に身を委ねることになる。ソプラノとテナーが順序よく持ち変えられる几帳面さは真文氏ならでは。風格さえ感じさせる見事なバランスのとれた演奏が高潮するのは<プリマヴェーラ>。タンゴの持つ仕業だ。
自分の一生を一日に置き換えると、“「Evening」という時間帯は、寝るにはまだ早いし、何かやろうと思えばまだ何かができる頃合い”、などと謙遜するが、こういう大人の鑑賞に充分耐え得るアルバムを制作できるなら、真文氏の「Evening」が誰よりも長く続くことを願うのは僕ばかりではないだろう。(稲岡邦弥)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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