#  807

『スーパー・プレミアム・バンド/サウンド・オブ・ニューヨーク』
text by 望月由美


ZZJAPLUS/ハピネット
HMCJ-1008 3,150円(税込)
7月27日発売予定

スーパー・プレミアム・バンド:
ケニー・バロン(p)
ロン・カーター(b)
ジャック・ディジョネット(ds)

1. A列車で行こう(Billy Strayhorn)
2. サヴォイでストンプ(Benny Goodman-Chick Webb-Edgar Sampson)
3. ムーン・リヴァー(Henry Mancini)
4. ニューヨークの秋(Vernon Duke)
5. 捧げるは愛のみ(Jimmy Mchugh)
6. セヴンス・D(Jack DeJohnette)
7. クラウズ(Kenny Barron)
8. ファイヴ・スポット・アフター・ダーク(Benny Golson)
9. バードランドの子守唄(George Shearing)
10. スクラップル・フロム・ジ・アップル(Charlie Parker)
11. トーン・ポエムNo.1(Ron Carter)

プロデューサー:伊藤八十八
エンジニア:鈴木良博
録音:2011年4月21日 
スタジオ:アヴァター・スタジオ、NYC

節電、自粛ムードの中、一服の清涼剤としてハピーなジャズを爽やかに満喫したい

 昨年の7月にファースト・アルバム『スーパー・プレミアム・バンド/朝日のようにさわやかに』(HMCJ-1001)をリリース、さらに「東京JAZZ 2010」に出演して好評を博した「スーパー・プレミアム・バンド」の第2作目である。今回はサブ・タイトルが「サウンド・オブ・ニューヨーク」となっており、ニューヨークに縁のある名曲を中心にプログラムされている。
 一曲目の<A列車で行こう>でいきなりディジョネットのシンバルのシャワーを浴びる。爽快である。カツカツとスティックがシンバルのどこに当たっているかがはっきりと分かるようなリアルさで、エリントンのゴージャスな<A列車>に対して、3人の編み出す<A列車>は今のニューヨークのハイ・スピードでクールな光景を描きだしている。前作ではドラムズがレニー・ホワイトであったが今回はジャック・ディジョネットに替わっている。ディジョネットが加わることによって、より、リズムにダイナミズムが増す。ケニー・バロン(p)、ロン・カーター(b)、ジャック・ディジョネット(ds)という名うてのマスター・ミュージシャンならではの余裕をすら感じる。
 ピアノ・トリオの作品はCDショップでおそらく一番多く陳列されていて、日本人好みのフォーマットなのかもしれない。この正統的なトリオ編成で巧者三人がそれぞれ鮮やかなサウンドを繰り出し、自己をアピールしているが、全体のサウンドは見事に一致している。ケニー、ロン、ディジョネットのコンセプトがぴったり合っているから統一感があり、聴いていて気持ちよくリラックスできる。
 ヘンリー・マンシーニの(3)<ムーン・リヴァー>はワルツ仕立てでケニーがまるでヘップバーンに寄り添っているかのようにメロディを美しく可憐に弾く、ディジョネットのブラシ・ワークの匙加減も軽やかで楽しさを倍加している。
 (4)<ニューヨークの秋>は多くのミュージシャンが名演を残している古典といってよい曲であるがケニー・バロンが淡々と、しかし陰影と深みのあるフレーズを整然と紡ぎだし、MJQの『DJANGO』(Prestige) に一脈相通じる郷愁を漂わせている。ピーターソンがあの巨体で可愛らしいバラードを弾くのと同じようにケニー・バロンもあの風貌とは似つかわしくないような、優しいバラードを弾いてくれる。この落差が音を余計に引き立たせてくれる。ライヴなどで観るケニー・バロンはさらっと弾いていて決して弾きすぎないように写るが、目を閉じて音だけに集中して聴いてみるとスマートでソフトな語り口の中に、趣味のよい端正な持ち味を発揮しているのが分かる。ケニー・バロンにもいつの間にか風格が漂い始めた。
 本アルバムにはニューヨークゆかりの曲とは別に3人のオリジナル曲がそれぞれ一曲ずつ収められている。(6)<セヴンスD>はジャック・ディジョネット(ds)の曲でディジョネットがケニー・バロンとのバースで鮮烈なビートを叩き、元気なところを見せてくれる。キースの「スタンダーズ」とは違ったライトな感覚を響かせるあたり、やはりディジョネットはプロだ。(7)<クラウズ>はケニー・バロンの曲でサロン・ミュージックのような穏やかな寛ぎにみちている。こうしたリラクゼーションにこそケニー・バロンの真骨頂が発揮される。(11)<トーン・ポエムNo.1>はロン・カーターのオリジナルで室内楽的なイメージが耳に馴染む。しっとりとしたスロー・ナンバーで夕凪のように穏やかな景色が浮かび上がる。
 昨年(2010年)の5月16日、ハンク・ジョーンズ(p)はその輝かしい人生に幕を下ろした。その時点で1977年にハンク・ジョーンズ(p)、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds)を初代メンバーとしてスタートし33年に亘って活躍した「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」は幕を閉じた。そして、その後を継ぐかのように「スーパー・プレミアム・バンド」が誕生したのである。ハンクは歌伴やバッキングの巧い人で名演の傍らにハンクありと言われた人である。ケニー・バロンもまたフロントを引き立たせる名人である。二人には共演する相手をよく聴いて反応する、聞き上手であるという点で共通している。「スーパー・プレミアム・バンド」もお互いによく耳を傾けあい3人の呼吸がぴたりと合っているので安心して聴ける。こうした当たり前のことをきちっと決めるところが真のプロフェッショナルなのであろう。「スーパー・プレミアム・バンド」も「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」のように長寿バンドになっていくのではないかという気がする。
 ニューヨークを点描した作品ではこれまでにもジョージ・ラッセルの『ニューヨーク、NY』(Decca)やメル・トーメの『Sunday in New York』(Atlantic)など多くの名作が生み出されているが本作も21世紀のニューヨークの今の香りを漂わせた作品としてそうしたニューヨーク・スケッチの一枚に加わったと言えよう。
 尚、ケニー・バロンは今年の「東京ジャズ2011」のステージに立つことが決まっている。節電、自粛ムードの中、一服の清涼剤としてハピーなジャズを爽やかに満喫したい。 (2011年7月 望月由美)

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