#  809

『鈴木良雄+増尾好秋デュオ/アラウンド・ザ・ワールド』
text by 稲岡邦弥


ONEレーベル / 55 RECORDS FNCJ-1005
2,500円(税込)

鈴木良雄(b)*
増尾好秋(g)**

1. セイリング&ローリング*
2. 80日間世界一周
3. アイル・ビー・ウィズ・ユー**
4. バークリー・スクエアのナイチンゲール
5. ムーン・スルー・ザ・ウィンドウ*
6. マイ・アイデアル
7. イン・ザ・フィールド *
8. マイナー・アジャストメント**
9. ディープ・イン・ア・ドリーム
10. ラスト・ラヴ*
11. コーヴァリス**
12. ミュージック・フロム・ザ・レイク**
13. オール・オブ・ミー (Bouns Track)

録音:後藤昌司@スタジオ・フレンズ・ミュージック、東京、2011年3月
ミックス&マスタリング:ジェイ・メッシーナ@West End Studio, NYC
プロデューサー:伊藤潔
アソシエイト・プロデューサー:五野洋
エグゼクティヴ・プロデューサー:タモリ

のどごし爽やかだがじわりと効いてくる馥郁たる大吟醸の味わい

ここ何回か東日本大震災のチャリティ・アルバムを紹介することが続いているが、このアルバムはまさにその大震災の中で録音された希有な事情を持つアルバム。フレンズ・ミュージックというのは、笹塚にあるベーシスト鈴木良雄の自宅地下にあるスタジオなのだが、その地下スタジオで録音中に大震災に遭遇したという。ペンシルヴァニアに住むギタリストの増尾好秋は日本滞在中の出来事で、大震災の惨状のレポートをTV報道などで見るにつけ心中穏やかならざるものがあったことは察するに難くない。しかし、このアルバムを聴く限り、そのような心の揺れが反映されることは微塵もなく、むしろ45年以上にわたるというふたりの交遊から生み出された強固な信頼関係に裏打ちされた親和力に富む演奏に心酔わされるのだ。増尾は12<ミュージック・フロム・ザ・レイク>で声高にではなく被災者にレクイエムを捧げることを忘れてはいないのだが。このたぐい稀な親和力は、生粋のジャズ・ギタリストである増尾に対し、鈴木がクラシックとピアノに出自を持つという事実にも起因していると思われる。鈴木のメロディに対するセンスは抜群で、思わず口ずさみたくなる佳曲を多く残しているが、このアルバムでも余裕を持ってメロディを奏でながら(ここではアルコは使わず、ピチカートに専念している)、バックにまわると懐の深いリズムでギターを包み込む。的確に表現するのが難しいのだが、ジャジーな増尾のギターとクラシックを素地に持つしなやかな鈴木のベースが表裏一体うまくはまって何とも心地よい親和力を生み出しているといえば良いのだろうか。
一聴耳に馴染みやすい演奏だが(8<マイナー・アジャストメント>や11<コーヴァリス>のように耳をそばだてる演奏もあるが)、その一音一音、音楽には彼らの音楽体験、人生体験のすべてが集約されており、聴き終えたあとの充実感にはひとかたならぬものがある。それはのどごし爽やかだが、あとでじわりと効いてくる馥郁(ふくいく)たる大吟醸の味わいに似ている。

鈴木と増尾はともに1946年生まれ。早稲田のダンモ研(モダンジャズ研究会)では鈴木が1年先輩だが、増尾が入部してきた時ジャズのイディオムを身に付けるべく四苦八苦していた鈴木を尻目に増尾はすでにジャズ・ギタリストとしての技術はすべて身に付けていたという。前後して渡辺貞夫のグループに入団(鈴木はベーシストとして!)するが、解散後ともに、これまた前後して渡米する。鈴木は1985年に帰国するが、増尾はギタリスト、プロデューサーとして定住している。45年以上の付合いの中でデュオ・アルバムの制作は初めて。7月1日ボディ&ソウル(南青山)からスタートしたふたりのツアーは10月29日のG Face Cafe(前橋市)まで4ヶ月の長きにわたる。

なお、このアルバムは、昨年11月に急逝した渡辺貞夫夫人故貢子(みつこ)さんに捧げられている。(稲岡邦弥)

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