#  810

『小曽根真&フレンズ/Live & Let Live〜Love For Japan』
text by 稲岡邦弥


ユニバーサル・ミュージック UCCJ2089
3,000円(税込)
7/27発売予定

1. ブルー・ボッサ
チック・コリア (p) 小曽根真 (p) ゲイリー・バートン (vib)
2. クヤヴィアク
アナ・マリア・ヨペック (vo) 小曽根真 (p)
3. ゴールデイズ
小曽根真 (p) クリスチャン・マクブライド (b) ジェフ・テイン・ワッツ (ds)
4. ヴァリエーションズ・オン・ア・ダンス
ジェイク・シマブクロ (ukulele) 小曽根真 (p)
5. ノー・グレイター・ラヴ
ランディ・ブレッカー (tp) 小曽根真 (p) クリスチャン・マクブライド (b) ジェフ・テイン・ワッツ (ds)
6. サマータイム
ゲイル・モラン・コリア (vo) チック・コリア (p) 小曽根真 (p) ゲイリー・バートン (vib)
7. アダージョ
パキート・デリヴェラ (cl) 小曽根真 (p) Zach Brown (b) Eric Doob (ds) Fung Chern Hwei Gregor Huebnet Rachel Golub Jesse Mills Cyrus Beroukhig & Andrea Oey (vl) Aleksandr Nazaryan & Ronald Laurence (vla) Leigh Stuart & Rubin Kodheli (vc)
8. アム・アイ・ア・ドリーマー?
小曽根真 (p)
9. ふるさと
神野三鈴 (vo) 小曽根真 (p)

録音:2011年4月29日東京/5月22日フロリダ/5月23日・24日ニューヨーク

かつて自らが被災者であった小曽根の被災者に対する痛切な心情が共演者にも伝播した気高さを持つ

当時のポリドール・レコードのディレクター五野洋に付き添われた小曽根真は六本木のセディック・スタジオに現れるやピアノに向かって一気に<ノー・モア・ブルース>を弾き上げた。いわば<もうこれっきりだぜブルース><もうご免だぜブルース>。神よ、ひとびとを2度とこのような悲惨な目に会わせないで欲しい。実家のある三宮市では駅前のデパートが倒壊し、高速道路の橋脚が折れ、まるで映画の世界のような惨状が現実のものとして眼前に展開されていた。父親の経営する地下のジャズクラブは浸水してハモンド・オルガンが水にかぶり営業を断念せざるを得ないありさま。阪神淡路大震災のベネフィットCD『ビッグ・ハンド・フォー・阪神〜レインボー・ロータス』にピアノ・ソロ<ノー・モア・ブルース>を提供した小曽根はその年10月に開催された「インターナショナル・ミュージック・フェスティバル・イン・神戸」に渡辺香津美gとデュオを組んで出演、被災高校生5,000名を前に<スペイン>などを熱演、彼らに限りない勇気を与えたのだった。
空前絶後と思われた阪神淡路大震災から16年後の今年、それを遥かにしのぐ東日本大震災が発生、今度は自らが先頭に立って仲間を集め被災者支援のアルバムをプロデュースすることになろうとは、よもや想像だにしなかったに違いない。<ノー・モア>のはずではなかったのか!
小曽根の呼びかけに馳せ参じたミュージシャンは上記の通り。恩師のゲイリー・バートンからコリア夫妻、ランディ・ブレッカー、パキート・デリヴェラなど多士済々。収録地は東京、フロリダ、ニューヨークの3ヶ所に及ぶ。
演奏にはオープナーの<ブルー・ボッサ>から終曲の<ふるさと>に至るまで祈りにも似た気高さが漂う。全曲に参加するかつて自らが被災者であった小曽根の被災者に対する痛切な心情が共演者にも伝播したのだろう。単なる友人としての付合い的な演奏に終始したものは1曲とてない。このあたりが他のいわゆるチャリティ・アルバムと厳然として一線を画し、音楽的にもきわめて充実した内容となったことは間違いない。もちろん、それ以前に小曽根の音楽に対する基本的な姿勢が反映された結果であることはいうまでもないのだが。

小曽根とコリアの2台のピアノにバートンのヴァイブが加わるという、1、6など編成的にも他では実現され得ない挑戦的なものであるし(6<サマータイム>ではさらにコリア夫人のヴォーカルが加わる)、2と7はそれぞれ原曲はショパンとモーツァルトで、クラシックにも活動の場を求める小曽根の志向が反映されている。7<アダージョ>では自ら編曲したストリングスをバックにパキートが見事なクラリネットの妙技を披露する。2のショパンのマズルカの原曲を成すポーランドのトラッドを歌うアナ・マリア・ヨペックはパット・メセニーに見出されたワルシャワ出身の歌手、4のジェイク・シマブクロはハワイ出身のウクレレの名手。小曽根のインプロヴィゼーションで綴られる8<アム・アイ・ア・ドリーマー?>は、ジョン・レノンが<イマジン>で「国境のない世界だなんて夢想家=ドリーマーといわれるだろう」と歌う想いに寄り添っているのだろう。アルバム・タイトルの『live and let live』は、このアルバムのコンセプトそのものである「持ちつ、持たれつ」、「共生」などを意味する成句だからだ。終曲の童謡<ふるさと>を歌う女優の神野三鈴は小曽根の愛妻である。
ジャケットのアートワークは、広告、デザインなどで幅広い活動を展開する佐藤 可士和が手がけた。
なお、このCDの収益のすべては公益社団法人企業メセナ協議会GBFund (芸術・文化による震災復興支援ファンド) に寄付されるという。(稲岡邦弥)

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