#  814

『ジェレミー・テイラー/レゲエ・インタープリテーション・オブ・カインド・オブ・ブルー』
text by 稲岡邦弥


Secret Stash/Zounds!/ウルトラ・ヴァイヴ
ZS-002 2,500円(税込)

1. ソー・ホワット
2. フレディ・フリーローダー
3. ブルー・イン・グリーン
4. オール・ブルース
5. フラメンコ・スケッチズ
6. ソー・ホワット(ダブ)
7. フレディ・フリーローダー(ダブ)
8. ブルー・イン・グリーン(ダブ)
9. オール・ブルース(ダブ)
10. フラメンコ・スケッチズ(ダブ)

演奏者:不詳
プロデューサー:ジェレミー・テイラー
録音:NY, 1981年春

聴き込めば聴き込むほど謎が深まる問題作

『カインド・オブ・ブルーのレゲエ的解釈』とでも訳すべきか。モダン・ジャズ・ファンには聖典と崇められているマイルス・デイヴィス1959年の録音、『カインド・オブ・ブルー』(CBS)をジャマイカのレゲエ・ミュージシャンにカヴァーさせたプロデューサーがいた。1981年のことである。ジャマイカに遊んだNY大学の音楽教授ジェレミー・テイラー(自身、ミュージシャンでもあるという)は、現地で触れたレゲエの素晴らしさをジャズファンに知らしめる手段としてジャズファンにもっとも馴染みのアルバムのレゲエ化を企画した。
ジャマイカで聴くレゲエはとにかく最高である。NYで聴くジャズと同じだ。いや、それ以上かも知れない。キングストンの空港に降り立つと容赦なく照りつける灼熱の太陽。咲き誇る原色の花々。街中で鳴り響くサウンド・システム(自走式の仮設ディスコ)。ボブ・マーリー・ミュージアムに一歩足を踏み入れるとそこはもうレゲエ一色の世界。たむろするラスタたち。怪しげな匂いさえ鼻をつく(現地でガンジャといわれるマリワナ)。レゲエ・ミュージシャンの聖地だが、アングロサクソン系住民とは隔絶された租界地である(拙稿「ボブ・マーリィ生誕50周年記念フェスティバル」)。
それにしてもだ。ボブ・マーリーがアイランド・レーベルを通じて『キャッチ・ザ・ファイア』をリリース、世界デビューを果たしたのは1972年である。2年後にはエリック・クラプトンがボブの<アイ・ショット・ザ・シェリフ>をカヴァー、シングル・チャートの#1に送り込んだ。ジミー・クリフだって先行している。宗主国であるイギリスは別として、アメリカのジャズファンの鈍感さと偏狭さはどうだろう。もっともそのお陰でぼくらは30年後の今、このようなとても興味のある音楽を耳にする恩恵に浴しているのだが。
30年後の世界初CD化? 1981年、ジャマイカからスタジオ・ミュージシャンをNYに呼び寄せ、レコーディングを済ませたテイラー教授だったが、直後にヨーロッパで客死、この録音がLPとして陽の目を見るには、2009年のマイルスの『カインド・オブ・ブルー』録音50周年を待たねばならなかった!それからさらに2年、テイラー教授の遺族によるCD化の許可が下りた。須永辰緒執念の勝利と言って良いだろう。1981年というのはボブ・マーリーが没した年でもあり、没後30周年での初CD化というのは、このアルバムにまつわるミステリアスなストーリーを完結させるには充分な出来事ではある。
録音当時のデータは不詳。演奏者の詳細も不明。ミックスは、2009年のLP発売に際し、発売元のSecret Starsh Recordsのプロデューサーにより行われた。
内容はタイトル通り。『カインド・オブ・ブルー』の“レゲエ的解釈”。レゲエ独特のネイティヴな荒削りの魅力、開放感、高揚感は限りなく抑えられ、“完璧な作品”といわれる『カインド・オブ・ブルー』の格調の高さがそのままレゲエに移し替えられた趣。
後半の5トラックは、2009年に同一プロデューサーが制作したダブ・バージョン。こちらも本来のダブほどの創造的音響処理は行われておらず、スネアのリムショットにリバーヴをかけたり、SEを加えたりの基本的な処理に留め、ダブ独特のバランスの変化による新しい意匠を創造してはいるものの、オリジナル・アルバムの雰囲気を大きく逸脱することはない。
『カインド・オブ・ブルー』を介在させてレゲエの魅力をどのようにジャズファンに伝えようとしたのか未完のまま他界したテイラー教授の真意が、このアルバムを聴き込めば聴き込むほど謎として深まるばかりである。(稲岡邦弥)

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