#  815

『マルチン・ボシレフスキ・トリオ/フェイスフル』
text by 稲岡邦弥


ECM/ユニバーサル
UCCE-7012 2,500円(税込)

マルチン・ボシレフスキ (p)
スワヴォミル・クルキエヴィッツ (b)
ミハウ・ミスキエヴィッツ (ds)

1. 小さなラジオに(Hans Eisler)
2. ナイト・トレイン・トゥ・ユー*
3. フェイスフル(Ornette Coleman)
4. モザイク*
5. バラード・オブ・ザ・サッド・ヤング・メン(Frances Landesman-Thomas Wolf)
6. オズ・ギーゾス(Oz Guizos-Hermeto Pascoal)
7. ソング・フォー・スビルク*
8. ウォーク・アップ・イン・ザ・デザート*
9. ビッグ・フット(Paul Bley)
10. ルガーノ・レイク*

*マルチン・ボシレフスキ

録音:RSI Rete Due (Radio Svizzera) スイス ルガーノ2010年8月
プロデューサー:マンフレート・アイヒャー

ECMのピアノ・トリオの伝統に立つポーランドの正統派トリオ

久しぶりにECMの国内盤が発売された。昨年の「東京JAZZ 屋台村」に出演したマティアス・アイク(tp、ノルウェー)の『スカラ』と本作マルチン・ボシレフスキ・トリオの『フェイスフル』である。ECMの場合、国内盤が出ようと出まいとECMプレスを買うファンはECMプレスを買うのだから、といってもやはり国内盤が出ないのは寂しい。年末にはキース・ジャレット初の南米大陸でのソロがリリースされるそうだが、それ以上に期待が沸くのは菊地雅章トリオの登場である。予告されていたソロに代わって、トーマス・モーガン(b)とポール・モチアン(ds)のトリオが先発する。
菊地のトリオはECMのピアノ・トリオの流れにあっては異色といえようが、このマルチン・ボシレフスキのトリオはまさにECMピアノ・トリオの正統である。
リズムは限りなくオープンで多くの場合タイム感覚も希薄となり、音楽はたゆとうように流れていく。縛りを解かれたピアノもベースも思いのままに羽を広げる。ときにピアノが流れの果てまで足を伸ばすことがあるが、いうまでもなく、それは耽溺の結果ではなく、制御の効いた感情の彷徨である。オーネット・コールマンもエルメート・パスコアールもボシレフスキ・トリオの自家薬籠中のものになる(ポール・ブレイの<ビッグ・フット>はさすがに原曲の独特のリズム・フィギュアを踏襲してはいるが)。全体を覆うのはきわめて上質の抒情。それを現実のものとしているのはいつもながらどこまでも行き届いた音の清新さと音楽的な三者のバランスの良さ。
このトリオはポーランド・ジャズ界の先達トマシュ・スタンコ(tp)を支えて約5年(その間、豪州からの帰国途次、在日ポーランド大使館でショーケースを披露した)、ECMで3年おきにアルバムを制作してこれが3作目である。お互いを知り尽くした三者がこれだけ清新でイマジナティヴな演奏を展開できる裏にはやはりプロデューサーの存在が大きく働いているのだろう。
7月21日、身辺整理を済ませた音楽評論家中村とうよう氏(79)が予告済みの自死を遂げた。僕が現役当時、国内発売するECMのアルバムに10点満点の1点や2点を付けたのがとうよう氏だった。アイヒャーが創る音楽はとうよう氏の美学の極北に位置していたのだ。第三世界の音楽を愛するとうよう氏にとっては当然の評価。おそらくボシレフスキのこのアルバムもとうよう氏の採点は3点どまりだろう。オーネットやパスコアール自身の演奏には満点を付けるに違いないが。しかし、僕らはそれはそれで納得していた。とうよう氏の批評の不動の座標軸を熟知していたからだ。(稲岡邦弥)

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