# 818
『KAZE/Lafale〜ラファール』
text by 悠 雅彦
Circum - Libra Records 201/ボンバ (9月10日リリース予定) |
Christian Pruvost (tp)
Natsuki Tamura (tp)
Satoko Fujii (p)
Peter Orins (ds)
1. Noise Chopin
2. Anagramme
3. The Thaw
4. Maker - T
5. Polly
6. Blast
Recorded live in concert at Manggha Museum of Japanese Art and Technology, Krakow, Poland, November 15, 2010
仏の二人に共鳴した藤井と田村のいつになく鬼気迫るプレイ
藤井郷子・田村夏樹夫妻が3種の新作CDを同時発表した。この夫妻コンビは昨年初頭の4作同時リリースをはじめ前代未聞の数々の試みを世に問うてきており、多少のことではこちらももはや驚かなくなった。とはいえ、大して間をおかずにまたも複数の新作を同時発表するとは、この夫妻の底知れない創造力と活動エネルギーの源泉はいったいどこから来るものかと不思議に思わずにはいられない。前回もそうだったが、今回の3種の新作にも駄作はない。
その3CDとは、「藤井郷子みん-ようアンサンブル」の『ウォーターシェッド』(LIBRA)、「藤井郷子オーケストラ・ニューヨーク」の『ETO (干支)』(LIBRA)、及び本作である。どれも充実していて聴きごたえがあるが、新鮮な作品内容と想像を超える演奏能力で聴く者を捉えて放さない本作をクローズアップさせることにする。
この作品は上記クレジットで明らかなように、昨年11月にポーランドのクラコウにおけるコンサート・ライヴ。夫妻と2人のフランスのミュージシャンとの共演だが、第1にドラマーのピーター・オリンズの音楽家としての優れて特異な能力、第2にトランペット奏者クリスチャン・プルーヴォストのユニークな演奏技法、そして第3にこのミュージシャンの能力に共鳴し、彼らと意気投合しあった演奏を繰り広げる藤井と田村のいつになく鬼気迫るプレイという3点で出色だった。私にとっても初めてのこの両プレーヤーの能力と彼らとの出会いについては、藤井郷子が短いCDノーツの中で簡潔にふれているので参照して欲しいが、オリンズとの出会いでは公演先のフランスでひどい時差ぼけを解消してくれるほどの感銘を受けたという彼女の言葉が決して誇張ではないことも、彼女の想像力を超えたクリスチャンの特殊奏法での演奏能力がいかに刺激的であるかということも、演奏を聴いて充分に納得できた。
タイトルの「Rafale」はフランス語で「突風」という意味らしいが、とすると藤井の「Blast」(第6曲)をフランス語に置き換えて名付けたことになる。そういえば「KAZE」も「風」。だとすればわざわざこれをグループ名に選んだ裏にあるのは、機会さえあればこの4人で演奏活動を続けようとする意思表示の現れと見た。
エチュード「別れの曲」など複数のショパンの旋律がデフォルメされながら展開する@「ノイズ・ショパン」。ポーランドの楽聖に敬意を表したのかもしれないが、むしろその後で現れる藤井のソロでショパンからは遠く離れた風景が広がっていく展開から、中盤以降の例の「葬送行進曲」(ピアノ・ソナタ第2番)のテーマをモティーフにしたクライマックスの現出が、特に両トランぺッターの好演を得て印象深い。とりわけ交響詩を彷彿させるドラマティックな構成には、オリンズの優れたドラミングと構想力が発揮されているのではないか。そう確信させたのがA「アナグラム」、そして何といってもC「マリー - T」と切れ目なく演奏されるDの「ポリー」という3つのオリンズ作品。Aでのピアノによる数音の連続する提示がアナグラム(綴りかえ)を象徴する、そんな中でのユーモアさえ感じさせる展開から、藤井の優れたオリジナルB「Thaw」(雪解けの意。前出の民謡アンサンブルによる『ウォーターシェッド』のオープニング曲で、楽器編成が違うため同じ変拍子の進行でもサウンドはかなり異なる)を挟んで演奏されるCとDは文字通り本作のクライマックス。オリンズは演奏者にふさわしい場を提供する構想力にたけているらしい。夫妻、分けても藤井郷子が触発されていく様子がありありとうかがえるのも本ライヴの聴きどころ。2トランペットの共演も聴きもので、最後に8ビートに乗って2人がテーマを奏する大団円風の演出もオリンズのアイディアだろうが、たとえばトランペットとは思えない異様なサウンドでスペースに広がりと驚きを与えるプルーヴォストの表現技法がオリンズの緻密な楽曲展開に未体験のスリルをもたらしているのも、彼の力を知っているこのドラマーならではの功績だろう。最後の「ブラスト」では、終わり近くに再びショパンの「別れの曲」の断片が現れる。ひとつのストーリーを持った組曲の終焉にふさわしい。
夫妻がこの2人のミュージシャンを招いてライヴを提供してくれる日を、首を長くして待つことにする。(2011年8月7日 悠 雅彦)
*「KAZE」CDリリース・ジャパン・ツアー
9/05〜9/10 www.satokofujii.com/jcalendar.html
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