#  819

『上原昌栄/ウチナー・ビート』
text by 稲岡邦弥


Respect Record RES193
2,520円(税込)

上原昌栄カルテット(#2,3,5,6,7,8):
 上原昌栄(ds) 小川健太(pf) 波平恵茂(b)
 スタンリー・ヘイズ(cl)
ビッグ・コンボ(#1,4):
 川上 肇(tp) 喜納正香(tp) 岩崎文紀(as)
 前田妙子(as) 上 幸一郎(bs)
 真栄里 英樹(tb) 津嘉山 正明(p)
 藏方"Jeff "正仁 (b) 上原 昌栄(ds)
ストリングス・カルテット(#9):
 宮良美香(vln) 野口友江(vln)
 くによしさちこ(vla) 城間 恵(vcl)
 直子(p) 上原 昌栄(三線, Vo)

1. ウチナー・ビート! (ビッグ・コンボ・ヴァージョン)
2. A列車で行こう
3. ララバイ・オブ・寓話〜ウィ・リメンバー・屋良文雄〜
4. ワン・ファイン・デイズ〜我が素晴らしきジャズ人生〜
5. サザン・ウィンド
6. 鈴懸の径
7. バーニーズ・チューン
8. ウチナー・ビート! (カルテット・ヴァージョン)
9. 十九の春 (Bonus Track)

 まず、流れてくる演奏に誰もが頬をゆるめることだろう。このスイング感!このハーモニー!このメロディ!その心地よさに手放しで身を委ね懐かしさに目尻を下げる。しかし、奏者を特定することはできない。懐かしさだけではない。
 いま、生きている息吹も感じられる。何よりこのユルさはDNAのなせる技に違いない。先入観があって聴き始めたわけでは決してないのだが。
 オープナーの<ウチナー・ビート!>は、このアルバムのミュージカル・ディレクターを務めた真栄里英樹(まえさと.えいき)のオリジナル。トロンボーン奏者でもある彼はまだ30そこそこだそうだ。「ウチナー・ビート!」。これが“沖縄のジャズ!”だ。“沖縄の鼓動”だ。アルバム・タイトルにもなっているように、“沖縄のジャズ”であることを誇らしげに宣言しているようにみえるが、まなじりを決したところは微塵もみられない。どこまで行っても懐が深い。ちなみに、「ウチナー」は、「ヤマト(大和)」「ナイチ(内地)」に対して沖縄の人たちが自らの土地を指す言葉。
 プレイヤーも楽しみ、リスナーも楽しませる。これがアルバムの主人公上原昌栄のモットーだ。75才の現役ドラマー。屋良文雄(p)を継いで沖縄ジャズ協会の会長も務める。随所で聞かせるソロも堂に入ったもの。アップ・テンポの<バーニーズ・チューン>での早業に一点の乱れもない。かつて範としたジーン・クルーパやバディ・リッチのスピリットが乗り移ったかのよう。「沖縄民謡の太鼓を叩いていたから、ドラムも自然に叩けた。ジャズのリズムも身体から自然に出て来る」とうそぶく。なるほど彼の叩き出すビートは鼓動そのものである。泰然自若としている。高校のブラバンにまで廻ってきた米軍基地の仕事が沖縄返還とともに激減、転職していく仲間を尻目にジャズにこだわった。
 屋良文雄追悼をテーマに75才にしてCDデビューの機会が訪れた。ワーキング・バンドのカルテットを中心にノネットで2曲。クラリネットのスタンリー・ヘイズはクラシックの出身。沖縄でジャズに目覚めた。グレン・ミラーばりのテクニックを聞かせる。<鈴懸の道>とともに屋良に捧げた<ララバイ・オブ・寓話>の「寓話」は、屋良がオープンしたジャズ・クラブ。現在の仕事場でもある。<ワン・ファイン・デイズ〜我が素晴らしきジャズ人生>は、津嘉山正明(p)の作品。沖縄音階を使いながら明るく上原の心情を表した。上原が味のある喉と三線(さんしん)を聞かせる<十九の春>は文字通りのボーナス・トラック。
 半世紀を超す上原昌栄のジャズ人生の総決算でもあるこのアルバムは期せずして(あるいは、当然のように)ウチナンチューとしての彼らのアイデンティティを見事に示す結果となった。うだるような暑さのなか、沖縄に思いを馳せながら、頬をゆるめるひとときを過ごしたのだった。(稲岡邦弥)

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NEW1.31 '16

追悼特集
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