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『スタン・ゲッツ・カルテット/ライヴ・アット・モントルー 1972』
text by 稲岡邦弥


WARD VQCD10272
2,500円(税込)(8月24日リリース予定)

スタン・ゲッツ(ts)
チック・コリア(p,fender rhodes)
スタンリー・クラーク(b)
トニー・ウィリアムス(ds)

1. キャプテン・マーヴェル
2. デイ・ウェイヴズ
3. ラッシュ・ライフ
4. ウィンドウズ
5. クリフォードの思い出
6. ラ・フィエスタ
7. タイム・ライ

録音:1972年7月モントルー・ジャズ・フェスティバルでの実況録音

トニー:1945年12月12日-1997年2月23日
ゲッツ:1927年2月2日-1991年6月6日
クラーク:1951.6.30
チック:1941年6月12日
RTF:1972

 各地で野外のジャズ・フェスが行われている8月、夏の盛り(暦ではすでに立秋を過ぎているのだが)。ついさきほど、近くの1本の立ち木に5匹のアブラゼミが群がっているのを目撃したばかり。かつてヤマハの合歓(ねむ)の里でクマゼミの群生を見たことはあるのだが。わずかに畑が残っているとはいえこの宅地にセミの群生は珍しい(隣りの木にも3匹留っていた)。セミは地中で7年間の生育期間を経て地上に出てくるのだが、土壌の放射能汚染が懸念される今、来年以降のセミの生態はどうなっているのだろうか?気になるところではある。
 これは、自宅にいながらジャズ・フェスを満喫できる1作。しかし、オーバーヒートすること必定ゆえ、節電中のリスナーにはどうだろうか?水分の補給を怠らない注意が必要だろう。スイス・モントルーのジャズ・フェスの実況、1972年7月の録音である。幕開けの<キャプテン・マーヴェル>はウォーム・アップ的なノリでイマイチだが、2曲目の<デイ・ウェイヴズ>以降は、チック、スタンリー、トニーの瀑走が始まるのでリスナーも態勢を整えておこう。<キャプテン・マーヴェル>といえば、1972年2月、酷寒のNYで『リターン・トゥ・フォーエヴァー』(ECM1022)に収録された曲。しかし、正規盤からはオミットされ日本限定発売のコンピレーション『ECMスペシャル』(TRIO PA-9601)で拾われたいわく付きの楽曲。ECMに第2作を蹴られたチックのRTFは、ポリドールと専属契約。10月録音のポリドール専属第1弾『ライト・アズ・ア・フェザー』 で再録、オリジナルRTFの演奏として陽の目を見させるのである。とこ ろが、ECM盤を録音した翌3月、スタン・ゲッツがCBSにクインテットでアルバム『キャプテン・マーヴェル』を録音するのだが、そのクインテットからパーカッションのアイアート・モレイラが抜けたのが本作のカルテットというわけだ。つまり、チックは1年の間に3回、同じ曲を録音したことになる。しかもそのどれもが決してパーフェクトではない、というのはどうしたことだろう。
 収録曲のうち、1、4、6がチックの当り曲で、とくに6の<ラ・フィエスタ>はRTFの演奏を通じて一世を風靡したジャズ・フュージョン最大のヒット曲といっても過言ではないだろう。思わせぶりなチックのイントロからベースが予兆をはらむリズムを刻み...テンポにアッチェランドがかかり、リスナーの腰が浮き..。お馴染みの流れである。ジョー・ファレルのソプラノ・サックス(ECM盤)に比べゲッツのテナーはやや重く感じるが、捌(さば)きは流石である。同時発売されているDVDで確認すると、どれほど速いテンポでソロを吹こうが、大ブロウに走ろうが、ゲッツの身体は微動だもしない。<赤城の子守唄>を唄う東海林太郎さながらである。
 本来のゲッツを懐かしむファンには、<ラッシュ・ライフ>や<クリフォードの思い出>が用意されている。サブトーンを効かせたゲッツのテナーがむせび哭く。ピアノに向かうチック、4ビートを刻むトニー。ECM盤の<ラ・フィエスタ>に顔をしかめたあのドクターもこの演奏には納得だろう。
 節電の中、手に汗握り、バラードに胸キュンとなり、音に酔うも良し、映像を楽しむも良し(ゲッツとトニーはすでに物故している)、演奏は少々粗いが、フェスの観客のひとりとなってエンジョイしたい優れたアーカイヴである。(稲岡邦弥)

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