#  823

『青木十良(チェロ)/バッハ:無伴奏チェロ組曲第4番』
text by 丘山万里子


N&F Co.,Ldt. Tokyo
NF20303 ¥2600

演奏: Violoncello:青木十良 Pf:竹尾(鳥井)聆子、水野紀子
曲目: J.S.バッハ「無伴奏組曲第4番 変ホ長調 BWV1010」/
「ミュゼット」(ガヴォット〜イギリス組曲第6番 ニ短調よりBWV811)
ショパン 「チェロ・ソナタ」より第1楽章

1. Funky Neighbourhood
2. Fundametals
3. Strum und Drang
4. Country Rain
5. Now
6. Envelope
7. Thick air
8. Copenhagen
9. Friday the 13th
10. Swing ‘em Home

録音:
 無伴奏組曲第4番 変ホ長調 BWV1010/
 所沢市民文化センターミューズアークホール(埼玉)
 2009年4月22〜24日
 ミュゼット/SPより復刻、1955年
 ショパン/浜離宮朝日ホール 2006年6月6日 ライブ
プロデューサー:西脇義訓
バランス エンジニア&サラウンド サウンド テクノロジース:福井末憲

 青木十良96歳、現役バリバリの新譜である。
 氏の音楽の命はボウイングにある。弦の上、というより、弦そのものをただ震わせるようになめらかに滑る弓。バッハの無伴奏「プレリュード」のジグザグの登攀も、力強いだけでなく朗々と響かせる。そしてその登攀を低音がぐっと支える。途中に挟まれた早いパッセージの身のこなしの敏捷さ。「アルマンド」はのびやかに、「クーラント」は軽やかに飄逸に、一音一音が粒だって立ち上がる。少し間をおいてそっと身を起こすゆったりした「サラバンド」はその重音のバランスの良さとトリルの波の美しさが秀逸。水面に映る月光の揺らぎのようだ。鮮やかなステップを踏む「ブレ」は裳裾(もすそ)をふくらませ、ひるがえす婦人の品格を湛え、最後の「ジーグ」は決して急速に弾き飛ばさず、アクセントを巧みに活かして勢いをつける。氏によればこの4番は難曲だが、「噛めば噛むほど味が出る作品」とのこと。
 次に置かれたやはりバッハの『ミュゼット』は洗練の極み。ピアノとともにクルクルとまるで少年と少女のように踊ってみせる。その華やかさと愛らしさ。重音になって抑えられる音量は、互いに手を取りながら恥じらうようで、思わず微笑みたくなる。こちらは1955 年SP盤からの復刻である。
 最後は令嬢とのデュオでショパンの『ソナタ』より第1楽章。私はこの演奏を生で聴いたが、ドラマティックな展開の中にもエレガンスの香り立つ演奏であった。
 使用楽器は名器スカランペラ1912年製。
 いわゆる楽壇とは距離を置き、孤高のチェリストと呼ばれてきたが、門下からは優れた弟子を多く輩出している。同時代の斎藤秀雄とは対極に立つ教育で、今も若手たちを指導、敬愛を受ける。
 このディスクとともに、『チェリスト、青木十良』(大原哲夫/飛鳥新社)が、対話形式で刊行された。歴史的背景をも含めた詳細な記述も加えられており、ぜひ一読をお勧めする。また近々、ドキュメンタリー映画『自尊を弦の響きにのせてーー96歳のチェリスト・青木十良』も上映予定(DVDでも発売)。(丘山万里子)

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