# 827
『ジミー・コブ/リメンバリング・マイルス〜トリビュート・トゥ・マイルス・デイヴィス』
text by 望月由美
Eighty-Eight’s/SONY VRCL-18851 Hybrid Disc(CD&SACD) ¥3,150 (9月21日発売予定) |
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ジミー・コブ (ds)
海野雅威 (p)
ジョン・ウェバー (b)
エディ・ヘンダーソン (tp/#2〜8)
1. 四月の思い出(Don Raye-Gene De Paul-Pat Johnson)
2. 枯葉(Joseph Cosma)
3. ラメント(J.J.Johnson)
4. アイ・ソウト・アバウト・ユー(Jimmy van Heusen)
5. チュニジアの夜(Dizzy Gillespie- Frank Paparelli)
6. フラン・ダンス(Miles Davis)
7. 星影のステラ(Victor Young)
8. 懐かしのストックホルム(Stan Getz)
9. リメンバリング・ユー(Jimmy Cobb- Dave Mathews)
プロデューサー:伊藤八十八(Eighty Eight Inc.)
エンジニア:鈴木良博
録音:2011年4月20日
スタジオ:アヴァター・スタジオ NYC
本作品は『リメンバリング・マイルス』というタイトルが全てを物語っている。『カインド・オブ・ブルー』(CBS) に参加し1958年から1963年までマイルスの下でリズムを支えたジミー・コブのマイルス・トリビュート作であり、厚めのシンバル・レガートからリム・ショット、そして端正なソロと、ジミー・コブの健在振りを存分に知らせてくれる最新作である。
演奏されている曲はマイルスに捧げたオリジナル(9)<リメンバリング・ユー>をのぞいて全てマイルスが歴史的名演を残している曲で構成されていて、マイルスの演奏と重ね合わせて聴くとジミー・コブの想いが、より深く伝わってくる。
(1)<四月の思い出>は1954年録音『Blue Haze』(Prestige)でマイルスはケニー・クラークの羽根のように軽いブラッシュにのって吹いている。本作ではジミー・コブの快適なリム・ショットで始まる。海野雅威のピアノをフィーチャーしたピアノ・トリオの演奏で、海野雅威のハンク・ジョーンズが蘇ったかのような軽妙で爽やかな正統派のピアノが楽しい。そしてさらにスネアは軽く、シンバルは厚いジミー・コブのドラム・ソロの洗礼を受ける。コブの趣味のよさが光る。
(2)<枯葉>はいうまでもない1958年の『Somethin’ Else』(Blue Note)以来60年代前半のマイルスの代表的なレパートリー。このトラックからエディ・ヘンダーソン(tp)が加わりワン・ホーン・カルテットになる。
エディのミュート・プレイが往年のマイルスを想い起こさせてくれる。コブは初めブラッシュでスタートし、エディのソロが頂点に達したところでスティックに切り替える。この段取りはこれまでの体験で十分解っているつもりでも、やはり期待通りにスリリングである。
ジミー・コブを知ったのはマイルスの『カインド・オブ・ブルー』(CBS)であった。マイルスが碧い闇を切り裂く。静々とブラッシュが進行する。この静々という表現がコブには一番しっくりとくるような気がする。そしてソロがマイルスからコルトレーンに引き継がれるまさにその瞬間、コブはブラッシュからスティックに持ち替える。そしてシンバルの一撃。シズルの余韻がながく尾を引く中からシンバル・レガートがくっきりと浮かび上がり、格好よく、ジミー・コブとの出会いであった。この瞬間こそがコブの妙味であり本作でもそうした場面が十分に堪能できる。
ジミー・コブは2009年『Kind of Blue』の録音50周年を記念して編成も全く同じ、トランペット、アルト、テナーの3管のセクステットで「Jimmy Cobb's "So What Band"」を結成して時の人となり、NEAのジャズ・マスター賞も受賞している。このバンドは今でも活動中である。
一方のエディ・ヘンダーソンはハービー・ハンコックのセクステットで第一線に躍り出て注目を浴びたがマイルスへのトリビュート作『SoWhat』(Eighty-Eight’s)を制作するなどマイルスに特別な思いをもっているトランペッターの一人である。また、エディはミンガス・ビッグ・バンドやチャールス・トリバー・ビッグ・バンドの一員として来日する他しばしば単身で来日し、ライヴ・ハウス等で演奏している大の親日家でもある。
マイルスが1957年、ギル・エヴァンスとのコラボレーション作『マイルス・アヘッド』(CBS)でフリューゲルホーンを吹いた(3)<ラメント>では、エディのストレートに長く尾を引いて突き刺さるようなミュートの音が美しい。(4)<アイ・ソウト・アバウト・ユー>は1964年、リンカーン・センター『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』(CBS)でマイルスはバラードの極致を聴かせてくれたが、ここではリラックスしたスインギーな装いでスマートに処理している。(5)<チュニジアの夜>は1955年『The Musings of Miles』(Prestige)でマイルスは本作と同じワン・ホーン・カルテットで臨んでいる。オスカー・ペティフォードのずっしりと重い骨太のベースが印象に残っているが、本作でのジョン・ウェバー(b)のソロも堅実だが一音一音、ぶ厚いビートで演奏に強靭な推進力を寄与している。(6)<フラン・ダンス>と(7)<星影のステラ>の2曲は1958年の5月、ジミー・コブがマイルスのセクステットに加わって初レコーディングした時の曲。丁度ビル・エヴァンスがセクステットに参加した時期でエヴァンスの瑞々しいタッチがマイルス・セクステットに新鮮な息吹をふきこんだ名演としていまなお輝いているが、本作での海野雅威のピアノも小粋で軽やかなスピリットでグループを刺激し、随所に趣味のよいソロをとっている。てらいのない海野雅威のセンスの良さが全編にわたって展開されている。
海野は昨年の4月、丁度一年前に、リーダー作としては第2作目になる『海野雅威/アズ・タイム・ゴーズ・バイ』(HMCJ-1002)をやはり同じスタジオ、同じスタッフで録音しているが、ニューヨークに拠点を移して4年、ニューヨークで生活している海野のタイム感覚はジミー・コブとのコンビネーションもぴたりと合っている。因みに海野のセカンド・アルバムでもジミー・コブがドラムでサポートしていた。
(8)<懐かしのストックホルム>はスウェーデンの民謡をもとにスタン・ゲッツがジャズにした曲として知られるが、マイルスも1952年の『Miles Davis Vol.1』(Blue Note)と1956年の『‘Round About Midnight』(CBS)で録音している。マイルスは、’52年はオープンで、’56年はミュートでプレイしているが、ここでのエディはミュートでプレイ。ここでもコブの精悍なスティック捌きが心地よい。
(9)<リメンバリング・ユー>はマイルスを偲んで作曲したという新曲でエディが抜けピアノ・トリオによる優しいバラードで、ハンク・ジョーンズを心の師と仰ぐ海野の深い味わいがアルバムの品位を高めている。
ジミー・コブは今年で82歳、長老といってよい年齢である。
昨年の暮れ海野雅威と来日したときに生演奏を聴かせていただいたが、その身のこなし、プレイはとても若々しい。ロイ・ヘインズやチコ・ハミルトンなど80歳をこえていまなお元気に自己のグループで活躍しているドラマーがいるがジミー・コブという人はもっと若い身近な人という気がする。音色とかタッチという微妙なニュアンスの上に成り立っているものは、天性備わったものが大きく作用しているように思うがジミー・コブのドラミングにもそういうテイストが生き続けているからではないかと思う。また、Sony〜Eighty Eight’s最強のレコーディング・スタッフの創り出したサウンドもコブのダイナミックなドラムスを一層際立たせている。
本作『Remembering Miles〜Tribute to Miles Davis〜』にはジミー・コブの軽やかなフットワークと共にワン・ホーン・カルテットの楽しみ、ピアノ・トリオの寛ぎがよいバランスで収まり、数多いマイルス・トリビュート作の中でもアコースティック・マイルスへの思いが一杯つまっている。(2011年8月 望月由美)
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