# 831
『ギラ・ジルカ/アピアランス』
text by 望月由美
Jump World(スーパーボーイ)/バウンディ | |
DDCZ-1770 2,835円 |
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ギラ・ジルカ (vo、chorua)
竹中俊二(g, programming)
中島 徹(p, tb, melodion)
コモブキイチロウ(a-b)
岡部洋一(perc)
ゲスト:
南 博(p on 5)
矢幅 歩(vo on 6)
1. Closet(ギラ・ジルカ/竹中俊二)
2. I Love You Madly(Duke Ellington)
3. One Note Samba(A.C.Jobim&N.Mendonca)
4. Round Midnight(B.D Hanighen/T.Monk&C.williams)
5. Appearance(ギラ・ジルカ/南 博)
6. Drinkin’ My Tea(ギラ・ジルカ)
7. Open Arms(J.Cain&S.Perry)
8. More(ギラ・ジルカ)
9. Perfect Situation(ギラ・ジルカ)
10. I Feel The Earth Move(Carole King)
11. The Island(I.G.Lins&V.Martins/A.Bergman&M.Bergman)
12. Fly Me To The Moon(B.Howard)
エグゼクティヴ・プロデューサー:三田晴夫
サウンド・プロデューサー:竹中俊二
録音:橋本まさし@Studio Sound Dali、2011年4月
ギラ・ジルカの歌には景色がある。ギラの人生というフィルターを通して様々な景色が歌の中からくっきりと浮かび上がる。昨年リリースした1stソロ・アルバム 『all Me』(Jump World) でもその点が強く印象に残っていたが、2作目にあたる本アルバム『アピアランス』ではより大胆にギラ・ジルカの個性を主張し、よりヴァーサタイルな色彩が濃くなっている。
ギラ・ジルカのレパートリーはエリントンやモンクなどのジャズ・ジャイアンツの名曲からスタンダード・ソング、ブルース、ボサ・ノバ、ソウル・ミュージックなどオールラウンドである。その幅広いジャンルの中から選ばれた曲は、本来その曲が持っている色合いを大事にしながら、さらにその上に自分のテイストをのせて独特のグルーヴを生み出している。そして、さらにアルバム・タイトル曲(5)<アピアランス>などギラ自身が作詞作曲した曲が3曲と作詞をした曲が2曲入っていて、より一層艶やかに自分の世界を際立たせている。
(1)<Closet>は一作目からサウンド・プロデューサーとしてギラ・ジルカをバックアップしている竹中俊二(g)が書いた曲にギラ自身が詩を書いて歌ったもので二人の音楽的な親密さ、コンビネーションのよさが伝わってくるブルースである。(2)<I Love You Madly>はいうまでもなくエリントンの名作。日本のミュージシャンもよく演奏する曲で、渋谷毅のソロ・アルバム 『フェイマス・コンポーザース』(Videoarts) でのエリントンの真髄に迫るソロが最も印象に残っているが、ここでのギラ・ジルカはエリントンの持っているアーシーな土臭い香りの要素を活かしてスインギーに歌い上げている。そして(3)<One Note Samba>ではボサ・ノバでは考えられない程の速いテンポで歌う。この超高速のディクションはよく舌をかまないものだと感心するほどのスピードのノリである。そしてモンクの名曲(4)<Round Midnight>はソウル風のバック・コーラスを配して大胆なほどにファンキーである。このコーラスはギラ自身が一人ですべてのパートを繰り返しオーヴァーダブして完成させたと聞くが、長年ゴスペル・クワイアを組織して活動してきたギラならではの発想である。(1)のブルースに始まり(2)でエリントン、ボサ・ノバの(3)そして(4)のモンクという一見、脈絡のないような曲を並べて楽しいストーリーを組み立てるところは見事で、竹中俊二のアレンジの妙、そしてギラ・ジルカの説得力のある歌唱の力によるものであろう。
昨年の暮れ、ギラの 『all Me』 リリース・ライヴ・サーキットのステージを聴く機会があった。ギラ・ジルカはDJ、MCの分野ではキャリアもながく人気のあるパーソナリティーと聞いていたが、ヴォーカルも説得力があり、自分の世界を持っている。そしてギラ・ジルカはその歌声だけでなくどっしりと腰が据わった貫禄、陽気であたたかい雰囲気でステージと客席をひとつにしてしまう包容力を持っていることが大きな魅力となっていた。このライヴでの寛いだ安らぎ感は本アルバムにも反映され聴いていてリラックスできる。
基本となる編成はギラ・ジルカの(vo)に竹中俊二(ギター、プログラミング)、中島徹(ピアノ、トロンボーン、メロディオン))、コモブキイチロウ(アコースティック・ベース)、岡部洋一(パーカッション)で、曲によってゲストを招いて表現に幅をもたせている。アルバム・タイトルにもなっている(5)<Appearance>ではゲストにこの曲の作曲者である南博(p)を招き、ギラが作った詩を歌う。まるでクラシックの小品のように爽やかで美しいメロディーを持ったこの曲をギラは高いキーで情感豊かに歌う。10年ほど前にこの曲が好きで、作曲者の南博の了解を得て詩を書いたということであるが、長い時間この曲を大切にしてきたギラの思いが伝わるし、作曲者、南博のピアノもギラとの呼吸がぴったり合っていてギラの声の魅力をより美しく際立たせるのに貢献している。(6)<Drinkin’ My Tea>ではツイン・ヴォーカル・ユニット「SOLO−DUO」で行を共にしている矢幅歩(vo)とのデュオで息のあったコンビネーションぶりを聴かせてくれる。実際、この二人のライヴを聴くと音楽的な熟成もさることながら、その場に居合わせた人みんなに、絆を呼びかける姿勢に共感を覚える。本アルバムでは二人のツイン・ヴォーカルはこの一曲だけであるが、二人にしか歌えないグルーヴィーな世界がしっかりと表現されていてカッコいい。
ギラ・ジルカはこのほかジャーニーの(7)<Open Arms>やキャロル・キングの(10)<I Feel The Earth Move>、イヴァン・リンスの(11)<The Island >、(12)<Fly Me To The Moon>などポピュラーな曲も歌っているが(8)<More>や(9)<Perfect Situation>などの自作曲に彼女の個性がより濃く表現されている。
イスラエル人の父と日本人の母を持ち、神戸で生まれ育ち、バークリー音楽大学でアルト・サックスとヴォーカルを学んだと聞いている。帰国後は関西でTVのモーニング・ショーの司会をしたりFM放送でDJをしたり、ゴスペル・クワイア「Voissalot Choir」を組織しニューヨーク、アポロシアターの「Harlem Hallelujah」に出演するなど多方面でキャリアを積んでいる。
本作「アピアランス」の選曲にもそうしたヴァーサタイルな面が出ているように思うが、それ以上にギラ・ジルカの歌に託す思い、歌う喜びが伝わってくる。昨年の 『all Me』 の発表以降自らのパーソナリティー、メッセージを強烈に発信し続けているギラ・ジルカであるが、豊かな情感、そして感性一点張りではない知的なセンスも音楽に反映され、一段と聴き手に身近な存在となった。
ギラ・ジルカは9月21日の「新宿ピットイン」を皮切りに本作『アピアランス』のリリース・ライヴ・サーキットを全国で行う。また、10月29日(土)には阿佐ヶ谷ジャズストリート「聖ペトロ教会」にて「矢幅歩(vo)とのツイン・ヴォーカルwith竹中俊二」のコンサートも決定している。各地での新鮮な出逢いが期待できる。(2011年9月 望月由美)
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