# 833
『トニー・ベネット/デュエッツ U』
text by 悠 雅彦
ソニー・ミュージック SICP - 3258 2, 520円 |
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1. ザ・レディ・イズ・ア・トランプ
2. ワン・フォー・マイ・ベイビー
3. ボディ・アンド・ソウル
4. ドント・ゲット・アラウンド・マッチ・エニーモア
5. ブルー・ヴェルヴェット
6. ハウ・ドゥ・ユー・キープ・ザ・ミュージック・プレイング
7. ザ・ガール・アイ・ラヴ
8. オン・ザ・サニー・サイド・オヴ・ザ・ストリート
9. フー・キャン・アイ・ターン・トゥ
10. スピーク・ロウ
11. ディス・イズ・オール・アイ・アスク
12. ウォッチ・ホワット・ハプンズ
13. ストレンジャー・イン・パラダイス
14. ザ・ウェイ・ユー・ルック・トゥナイト
15. イェスタデイ・アイ・ハード・ザ・レイン
16. イット・ハッド・トゥ・ビー・ユー
17. ホエン・ドゥ・ザ・ベルズ・リング・フォー・ミー
18. 星に願いを(日本盤のみ)
19. 霧のサンフランシスコ(日本盤のみ)
レディー・ガガ、ジョン・メイヤー、エイミー・ワインハウス、マイケル・ブーブレ、k.d. ラング、アレサ・フランクリン、シェリル・クロウ、ウィリー・ネルソン、クィーン・ラティファ、ノラ・ジョーンズ、ジョシュ・グローバン、ナタリー・コール、アンドレア・ボチェッリ、フェイス・ヒル、アレハンドロ・サンス、キャリー・アンダーウッド、マライア・キャリー、ジャッキー・エヴァンコ、ジュディ・ガーランド
この1作が想像を超えて劇的なニュアンスに彩られたのは、まさしく1人のポップな才能がこのレコーディングを成功裏に終えた4ヶ月後(7月23日)、ロンドンの自宅で急死したからに他ならない。彼女の名はエイミー・ワインハウス。薬物中毒やアルコール依存症のため暗い話題の多かったその生涯はジャニス・ジョプリンやビリー・ホリデイに比せられる。享年はジョプリンと同じ27歳だった。2008年に最優秀新人賞を含む5部門のグラミー賞に輝いた彼女の歌唱力とソウルは、名曲「ボディ・アンド・ソウル」を本作最大の聴きもの足らしめている。録音の当日、トニーはエイミーに言ったという。「君は素晴らしいジャズ・シンガー、たとえばダイナ・ワシントンみたいだ」。彼女は答えた。「実を言うと、わたしダイナ・ワシントンが大好きなの」、と。このやりとりが表記のDVDに収められているそうだ。訃報を聞いてトニーが歌手としての彼女を称えたことは言うまでもない。
世界中の音楽ファンを驚喜させたトニー・ベネットの『Duets』。2006年のグラミー賞3部門受賞に輝いたこの作品に続く今回の第2集は、前作で共演したマイケル・ブーブレとk.d. ラング以外は初めての顔合わせのシンガーばかり。レディー・ガガ、アレサ・フランクリン、ウィリー・ネルソン、ノラ・ジョーンズ、ナタリー・コールら(上記参照)に、イタリアの代表的テノール歌手アンドレア・ポチェッリ、スペインの人気歌手アレハンドロ・サンス、スーザン・ボイルをすでに超えたと評判のジャッキー・エヴァンコ(ボーナス)を混じえた19人のスター歌手が、トニーと組んで嬉々としてデュエットを楽しんでいる19ソングは、今年85歳を迎えた大歌手トニー・ベネットに対する彼や彼女らのまさに尊敬と愛情の証しといっていいものだろう。プロデューサーは前作のフィル・ラモーンとビリー・ジョエル。
全曲中のベストを選ぶのは至難、というより無理。聴く人の好みで分かれるはず。私の好みで言うなら、先記ワインハウス、レディー・ガガ、アレサ・フランクリン、ジョシュ・グローバン、ナタリー・コールら。とりわけレディー・ガガのジャズ歌手顔負けの唱法を披露する気分満点のガガと、ダイナ・ワシントンの再来を思わせるワインハウスが双璧だった。ジョン・メイヤーとの「ワン・フォー・マイ・ベイビー」で、フルバンドで初めて歌うメイヤーをリラックスさせ、酔っぱらいのフリをし、歌詞を即興的に酔い友達風の会話に仕立てたベネットの機転が微笑ましい。とにかく、どのトラックを聴いてもトニー・ベネットが84歳(録音時)とは思えない。それどころか、美声のアンドレア・ポチェッリと大差ない年齢といっても堂々と通るくらい、トニーの声には生命力がみなぎっている。全盛期と較べて声の衰えを云々するのは愚の骨頂。この大シンガーを前にしてそんな当たり前過ぎることをいうものではない。生前のフランク・シナトラをして「木戸銭を払って聴きに行きたい歌手」と言わしめたトニーの魅力をふんだんに味わえるばかりでなく、トニーと組むことですべてのシンガーが境地を一段あげた歌唱を繰り広げており、結果として最高のデュエット集に仕立て上げることに成功したプロデューサーやアレンジャーを含む全員の総和がこの素晴らしい成果を生んだのだろう。それもこれも、トニー・ベネットの人間としての魅力がこの成功を引き出したことを私は疑わない。
驚いたのは日本盤のボーナス・トラックとして入っているジュディ・ガーランドとの「霧のサンフランシスコ」。ガーランドは69年に亡くなっているので、それ以前の録音であるのは当然だが、トニーの声はこの録音とほとんど変わらない。もう1つのボーナス曲「星に願いを」のジャッキー・エヴァンコの美しい声と見事なヴォイス・コントロールも聴きもの。
とにかく堪能した。(2011年9月17日記 悠 雅彦)
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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