#  834

『チック・コリア+ステファノ・ボラーニ/オルヴィエート』
text by 稲岡邦弥


ECM/ユニバーサル
UCCE-1128
2,500円 10/05発売予定

チック・コリア (p)
ステファノ・ボラーニ (p)

1. オルヴィエート・インプロヴィセーション No.1
2. 白と黒のポートレート
3. イフ・アイ・シュッド・ルーズ・ユー
4. ドラリセ
5. ジターバグ・ワルツ
6. ポーラのワルツ
7. オルヴィエート・インプロヴィセーション No.2
8. (君の)まなざし
9. ダーン・ザット・ドリーム
10. ティリティ・トラン
11. アルマンドのルンバ
12. Fのブルース

録音:バーニー・キルシュ@ウンブリア・ジャズ・ウィンター
   @マンチネッリ劇場、オルヴィエート 2010年12月30日
アルバム・プロデューサー:マンフレート・アイヒャー
(ECM2222)

4手を持ったひとりのピアニストが演奏しているかのような

ECMレーベルを代表する新旧ふたりのピアニスト、チック・コリア (1941~)とステファノ・ボラーニ (1972~) によるデュオ。試聴を終えたあと、平常心に戻るのにしばらく時間がかかった。決して誇張ではない。恋人同士が戯れ合うかのようなインプロヴィゼーションによるコンサートのイントロから即興のブルースで応えたアンコールまで、ふたりは一心同体。ボラーニが記すように「チックと演奏していると、時に4つの手を持ったひとりのピアニストが演奏しているかのように感じていた」というほど。「ジャズを聴き始めた時からチックは僕のフェイヴァリットのひとりだった。僕は彼から多くを盗んだ。スタイル、フレージング、さらには魅力的なリズムをね」。ボラーニと出会ってからチックはボラーニのピアノにずっと耳を傾けていたという。ふたりが完全に解け合う下地は出来ていたのである。それにしてもこのコンサートでのふたりの同化ぶりはどうだろう。おそらく、このアルバムに収録された12曲はここに収録された通りに演奏されたものと思われる。インプロから始まってジョビン、アメリカン・スタンダード、ボサノバ、ジャズ・スタンダード、ボラーニのオリジナル。ここまでが1部。2部もインプロでスタートするが、見え隠れしていたコードとフレーズから<ナーディス>が浮かび上がってくる後半はスリル満点。ジョビン、アメリカン・スタンダード、フラメンコ、チックのオリジナル。長いスタンディング・オヴェイションが続き、アンコールに即興でブルース。事前のリハはまったくなく、ふたりで曲選びをしただけだという。テーマがストレートに演奏されることはなく、フレーズが断片的に提示されたり、パラフレーズされたり。思いのまま。ピアノ2台を卍のようにセットし対面しながらの演奏をイメージしながら、チックのフレーズ、ボラーニのリズムなどと追いかけて聴いていたが、知らず知らず音楽そのものの展開に興味が移ってしまった。
個性をぶつけ合うデュオの例もあるが、彼らの場合はふたりでひとつの音楽世界を創っていった。そして、それがライヴの場で“奇跡”といえるほどの成功をもたらした。ハービー・ハンコックや上原ひろみなどとのデュオの経験も多いチックに十分に伍した若いボラーニの健闘を大いに讃えたい。選ばれた古いスタンダードはどれも癖のあるひねりの曲でもあったのだ。
ソロで歴史を作ったECMにピアノ・デュオの歴史が新たに加えられた。(稲岡邦弥)

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