#  836

『キース・ジャレット/リオ』
text by 須藤伸義


ECM/ユニバーサル
UCCE-1129/30(2枚組)3,600円

キース・ジャレット(piano)

Disc 1 :
Part I/ Part II/ Part III/ Part IV/ Part V/ Part VI

Disc 2:
Part VII/ Part VIII/ Part IX/ Part X/ Part XI/ Part XII/ Part XIII/ Part XIV/ Part XV

Recorded @ Theatro Municipal, Rio de Janeiro, Brazil on April 11, 2011
Recording Engineer: Martin Pearson
Executive Producer: Manfred Eicher (ECM 2198/99)

何より音楽を創る喜びに溢れた作品

1990年代中葉に、慢性疲労症候群に倒れる以前のキースの“トータル・インプロヴィゼーション(完全即興)”によるソロ演奏は、いくつかの異なるモチーフ/ムードを、長編小説を綴るように、大曲に昇華/発展させていた(*注1)。その手法は、『Vienna Concert』(1991) や『La Scala』(1995) で頂点に達していたと思う。しかし、復帰後は、異なるモチーフ/ムードを単一の楽曲として完結させつつ、全体のコンサートを組み曲風に成立させる方法を実践してきている。その最初の成果は、抽象的リリシズムの光る『Radiance』(2002) や、豊潤な色彩感に満ちた『Carnegie Hall Concert』(2005) だったと思う。

注1:現在に通じる小曲を組み曲風に即興演奏した例外として、ソロ第1作『Facing You』(1971) や、東京・サントリーホールでの『Dark Intervals』(1987) が、挙げられる。

じつを言うと、『Carnegie Hall Concert』以降の作品、特に最近3作、スタンダーズ・トリオによる『Yesterdays』(2001)、ソロ作『Paris/London:Testament』(2008)、チャーリー・ヘイデンとのデュオ『Jasmine』(2007) は、消化不良気味だった。良く出来た作品達だが、キース音楽最大の特色である“同自発性”が希薄、というのが、その理由。たとえば、前ソロ作『Paris/London:Testament』は、部分的に光るモノはあったが、失恋(離婚)の痛手か、全体に沈痛な作風で、躍動感に欠け、それが聞き手の受ける感動を減滅していたと思う。

その折り、今年(2011年)の4月11日に、リオデジャネイロでの、トータル・インプロヴィゼーションによるソロ演奏が早々とリリースされると知り、心待ちしていたのが、本作『Rio』。録音からアルバム発表まで通常2、3年以上かかるECMとしては、異例のスピードだ。聞くところによると、キース本人からの強い要望があった“自信作”との事。彼によれば「ジャジーで、シリアスで、スイートで、遊び心があり、暖かく、経済的で、エネルギッシュで、情熱的で、ブラジル文化と独自の接点を得られた最高のコンサートの一つ」。この見解に100%同調はしないものの、筆者が直接演奏を体験した『Carnegie Hall Concert』のレベルに匹敵する作品だと思う。

キースの持つ多面的な音楽性が、何れもコンパクトな15楽曲により、理想的な形で表現されていると思う。曲想は多岐にわたるが、全体的に“秋”の雰囲気を感じさせる。それは、南半球の夏の盛りを過ぎた4月に行われたコンサートの故だろうか?(リオは、年中“夏”かも知れないが、多少の季節感はあるに違いないはず)

何より、音楽を創る喜びに溢れた作品だ。(NOBU STOWE /須藤伸義)

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