#  838

『キース・ジャレット/リオ』
text by 相原 穣


ECM/ユニバーサル
UCCE-1129/30(2枚組)3,600円

キース・ジャレット(piano)

Disc 1 :
Part I/ Part II/ Part III/ Part IV/ Part V/ Part VI

Disc 2:
Part VII/ Part VIII/ Part IX/ Part X/ Part XI/ Part XII/ Part XIII/ Part XIV/ Part XV

Recorded @ Theatro Municipal, Rio de Janeiro, Brazil on April 11, 2011
Recording Engineer: Martin Pearson
Executive Producer: Manfred Eicher (ECM 2198/99)

インプロヴィゼーションの1つの高みに達したキース・ジャレット

 全編をインプロヴィゼーションとしたキース・ジャレットのソロ・アルバムには、耳を傾けたくなる何かがある。それは、劣悪な演奏条件下で生まれた、『ケルン・コンサート』のあの奇跡のメロディへの郷愁であったり、情動を掻き立てるオスティナートに浸る快楽であったり、あるいは、様々なスタイルや語法を巧みに操る才気への敬服であったりするのかもしれない。『パリ・コンサート』で、バッハ風のポリフォニックな美しさが、現代の光沢を帯びて現れる様は感動的だ。だが、2002年大阪/東京でのライブを収録した抽象度の高い『レイディアンス』などは、場面々々に感情や関心を添わせる聴き方では途方に暮れてしまった。何らかの道筋を探りながらアルバム全体を俯瞰する必要に迫られた。
 今回、発売予定だったトリオ・アルバムを押しのけてリリースされるソロによる『リオ』は、『レイディアンス』以後の『カーネギー・ホール・コンサート』『テスタメント』の系列を踏襲し、短めの曲(パート)を連ねていくもの。個々の曲を聴けば、既聴感を覚えるものもある。しかし、アルバム全体から受ける印象は、『カーネギー・ホール・コンサート』の端坐した趣き、『テスタメント』にカップリングされたパリ公演のクールな距離感やロンドン公演でのそこはかとないノスタルジーなどとは、明らかに異なっている。収録が行われたのは、2011年4月11日リオ・デ・ジャネイロ市立劇場。前3作のアルバムに較べ、気分も曲想もいっそう開かれた感じを受ける。何よりも、ピアノがスウィング感をリラックスして愉しみ、メロディを心ゆくまで歌っている。メロディックな面を近視眼的に見れば、かつての懐かしいキースとも見えよう。だが、一連の演奏を通じて浮かび上がるのは、幾多の経験の果てにインプロヴィゼーションの1つの高みに達した現在のキース・ジャレットである。音の選びに気負いや淀み、過不足がない。視界の鮮明さは際立ち、どの瞬間も、どの曲も、次への可能性を確信しているかのように響く。その言わば恩寵的な確信が集積されてこのアルバム全体に大きな幸福感をもたらしている。終曲は神々しい美しさを放射するが、それが祝福するものを感じ取るには、1曲目からのすべての旅路を経なければならないだろう。インプロヴィゼーションをトータルで体験することの意義に、改めて目を見開かせてくれる傑作アルバム。その傑作の誕生に、リオの街や聴衆が大いに貢献したことも、このアルバムの大切な一面である。(相原 穣)

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