#  842

『山崎伸子/チェロ・リサイタル(Vol.4)』
text by 大木正純


ライヴノーツ
WWCC-7685

山崎伸子(vc)
野平一郎(pf)

1. チェロとピアノのためのソナタ(ドビュッシー)
2. チェロとピアノのためのソナタ第2番ト短調op.117(フォーレ)
3. チェロとピアノのためのソナタ(プーランク)
4. 亜麻色の髪の乙女(ドビュッシー)
5. ロマンス イ長調op.69(フォーレ)

 オペラの引っ越し公演やメジャー・オーケストラの大挙来日といった華やかな話題も結構だが、それよりも昨今、日本のクラシック界で頼もしく思うのは、室内楽シーンの静かな充実である。東京では老舗の文化会館小ホールのほか、たとえばトッパンホールや王子ホール(銀座)といった、適正サイズのホールが次々に整備されたという事情も背景にあるだろう。そういうこぢんまりした場所をベースに、実力者たちがコンサート・ツィクルスを開催して、いわゆるリピーターの数を徐々に拡大してゆくケースが増えている。

 そうしたコンサートは当然、リアル・タイムではせいぜい数百人が聴けるにすぎないわけだが、またそれだけに、いまそのライヴ録音に対する前向きの姿勢が感じられるのは、全国の室内楽ファンにとってありがたいことに違いない。

 前置きが長くなってしまったが、津田ホールで行われている山崎伸子のツィクルスをライヴ収録した「チェロ・リサイタル・シリーズ」は、その代表的な一例だ。今月の新譜はシリーズ第4弾、共演のピアノに野平一郎を迎えて、フランス系のソナタ3曲が演奏されている。まずそのプログラムが秀逸。ドビュッシー、フォーレ(第2番)、プーランクと、文字通り三者三様と言うほかない個性的な傑作の揃い踏みだ。

 演奏もすばらしい。一見したところ地味な存在ながら、豊かな内実をさらに深めつつ、なお着実に成長を続けているのが最近の山崎。ドビュッシー第2楽章「セレナード」の小粋なタッチなど、人生経験を積むことでしか得られない大人の世界そのものである。デュオの何とも言えぬチャーミングな対話で始まるフォーレのソナタは、傑作でありながら取り上げられる機会の少ない曲だけに、いっそう貴重なレコーディングだ。悲歌風の第2楽章アンダンテの、その美しさの中にある一種決然とした強さこそ、山崎の真骨頂だろう。

 ユーモアと苦みが入り交じり、緩徐楽章には深い哀感が漂うプーランクの、独特の屈曲感も、演奏家に並々ならぬ力量を要求する。それを山崎は、ほとんど何食わぬ顔で、と言ってもよいくらいの自然体で、さらりとクリアするのである。

 野平のピアノは達者の一語。超多忙スケジュールの中、涼しい顔で何でもこなしてしまうのが彼の凄いところだ。(大木正純)

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