#  843

『ベートーヴェン:交響曲第8番、第6番「田園」ほか/ケント・ナガノ指揮 モントリオール交響楽団』
text by 大木正純


ソニー・クラシカル
SICC-1474/5(輸入盤)

CD1
ベートーヴェン:
・交響曲第6番ヘ長調 op.68『田園』
・交響曲第8番ヘ長調 op.93

CD2
・大フーガ変ロ長調 op.133(弦楽合奏版)

モントリオール交響楽団
ケント・ナガノ(指揮)

録音時期:2011年
録音場所:モントリオール、サル・ウィルフリード・ペルティエ
録音方式:デジタル

 指揮者ケント・ナガノの活躍がめざましい。音楽総監督を務めるバイエルン国立歌劇場(オーケストラはバイエルン国立管弦楽団)の来日公演《ローエングリン》で、ワーグナーの音楽の美しさを心ゆくまで味わわせてくれたのはつい最近のこと。彼は目下、モントリオール交響楽団の音楽監督も兼務し、これら2つのメジャー・オーケストラとともに旺盛なレコーディング活動に乗り出している。これはモントリオールと展開するベートーヴェン・ツィクルスの1枚。ナガノといえばひところは、たとえばベートーヴェン《かんらん山上のキリスト》のような、ひと捻りした曲目に手を出すことが多かったのだが、こちらも現在進行中のバイエルンとのブルックナー・ツィクルスも含めて、いよいよ交響曲レパートリーの本丸に攻め入ってきた感がある。

 今回は2枚組。もう少しごつい、男性的なベートーヴェンも聴きたいところだが、まあいろいろあっていい。まず交響曲第8番。一陣の風がさわやかに吹き抜けるような、快速・清新の演奏だ。仮にこの曲が、例の“不滅の恋人”との前向きな決別の時期に書かれたというのが事実なら、これはさっぱりと第二の人生(?)に踏み出した楽聖の心境そのものか?

 1枚目はこの晴朗な交響曲のあとに《大フーガ》という曲者を置いているのが意表を突く。多くの演奏ではその重さに辟易する音楽だが、しかしナガノはこれを精緻な音の織物として、いきいきした呼吸で仕上げている。

 アルバム2枚目は《田園》。ここではまったくの正攻法が、ベートーヴェンの“自然への愛”をみずみずしく歌い上げる。しなやかな音の流れ、響きの透明な美しさ、そして楽員の高い個人技は、いずれもかつてのシェフ、シャルル・デュトワの置きみやげを、さらに磨いてゆこうというナガノのポリシーの表れか。終曲「喜びと感謝」が美しい。その柔らかな手触りは、ナガノならではの音楽的なセンスの良さを感じさせずにはいない。

 最後に蛇足をひとつ。それはいま、ナガノがコマーシャリズムの渦に飲み込まれつつあるのでは、という懸念だ。旺盛なレコーディングはむろん歓迎だが、何事もやりすぎは禁物。どうか忙しすぎて、すり減ってしまわぬよう。(大木正純)

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