#  844

『マイルス・エスパニョール/ニュー・スケッチ・オブ・スペイン』
text by 悠 雅彦


e one/ビクターエンタテインメント
VICJ -61656/7 2,980円

Disc 1:
1. アランフェス協奏曲
2. トランポリン
3. ジャスト・スリー・マイルス
4. デュエンデ
5. ファンタジア・ポワ・マイルス・イ・ギル
6. ブロト・イ・カヨ
7. パイサヘ・アルバノ
8. サエタ〜パン・パイパー

Disc 2:
1. スパンタンゴ
2. フラメンコ・スケッチ
3. ティリティトゥラン・カタラン
4. エル・スィング
5. モメント
6. テオ(ネオ)
7. ビューティフル・ラヴ
8. ソレア

チック・コリア、ゴンサロ・ルバルカバ、
チャノ・ドミンゲス、
エドゥセル・ゴメス(p)、
ジョン・スコフィールド、
ニーノ・ホセレス(g)、
ロン・カーター、
エディ・ゴメス、
ジョン・ベネティス(b)、
ジャック・ディジョネット、
アントニオ・サンチェス、
アレックス・アクーニャ(ds)、
ドミニク・ファリナッチ、
マイク・ウィリアムス(tp)、
ソニー・フォーチュン、
ホルヘ・パルドー(fl)、
エドマール・カスタネーダ(harp)、
ラビ・アブ・カリル(oud)、
サミー・フィゲロア、
ジェリー・ゴンザレス(perc)他

曼荼羅を思わせる「アランフェス」の壮大な宇宙観

 ボブ・ベルデンがまた興味深い秀作を発表した。“また”というのは、3年ほど前にインドのミュージシャンを起用してマイルス・デイヴィス作品に深くコミットした『マイルス・フロム・インディア』(BMG)を世に問い、他の人が考えつかないアイディアとマイルスの音楽に切り込む独特のアプローチによって多くの人々の脳裏に強いインパクトを与えたことがあるからだ。
 この2枚組は言うまでもなく、マイルス・デイヴィスがギル・エヴァンスとのコンビで吹き込んだ59年の歴史的傑作『スケッチズ・オヴ・スペイン』をボブ・ベルデンの頭脳を通して新たに再生させた長大な作品。多少の我慢も覚悟の上で聴き通すと、ベルデンの意図が奈辺にあるかが分かってくる。すると興味に拍車がかかって、もう一度全編を聴きたくなる。それ自体はオープニングの「アランフェス」ではっきりするのだが、原曲の作曲者J.ロドリーゴにとっても、またマイルスその人にとっても、この曲の背後にあって見え隠れするだけの幻影に過ぎなかったロマ(ジプシー民族)の音楽やフラメンコを、「アランフェス」からたぐり寄せてみようとするベルデンならではの着想が、全16曲を聴き通すことでより明快に把握できることになる。かくして曼荼羅を思わせる「アランフェス」の壮大な宇宙観が浮かび上がる。
 上記の参加ミュージシャンをご覧あれ。チック・コリアやロン・カーターに始まって、ウードやバグパイプやシンセサイザーの奏者を一瞥し、さらにはバスーン、イングリッシュ・ホルン、ハープ、アコーディオン、フレンチ・ホルンなど民俗楽器から西洋音楽の楽器を駆使する演奏家たちを含めて考えれば、これだけの人材が自由にできるならベルデンならずともたやすいことと思う人がいても不思議はないくらい。実際には、そこへ行き着くまでのアイディアと洞察がベルデンならでは、ということだ。これはいうまでもないか。個々のプレイでもDisc 1:#2のコリア、#5のG.ルバルカバ、Disc 2:#1や#2のチャノ・ドミンゲス、#4におけるコリア、スコフィールド、ゴメス、ディジョネットの親密度の高い演奏、ニーニョ・ホセレスとドミンゲスのデュエットの#8など印象深い演奏が並ぶあたりも壮観。マイルスとギルの「アランフェス」と比較して好き嫌いを言い合っても意味がないことだけは確かだろう。 (2011年10月5日 悠 雅彦)

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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