#  845

『渋谷毅/(蝶々在中)』
text by 望月由美


Carco/RINSEN
Carco−0014 2,500円(税込)

渋谷毅(p)
川端民生 (b)

1. 蝶々(てふてふ)(渋谷毅)
2. が、とまった(渋谷毅)
3. There Will Be Another You(Harry Warren)
4. You Don’t Know What Love Is(Gene De Paul)
5. Lover Man(Roger “Ramz” Ramirez、Jimmy Sherman)
6. Body And Soul(Johnny Green)
7. Misterioso(Thelonious Monk)
8. You Don’t Know What Love Is(Gene De Paul)
9. 無題(渋谷毅)

録音:1-5:1998.10.28 中ノ峠ミュージック・ラボ
   6-9:1998.10.31 小松市民センター
エンジニア: 柴田徹
マスタリング:島田正明

 いまや伝説のベーシストとなった川端民生と渋谷毅(p)二人の貴重なデュオ音源の初CD化である。渋谷さんが部屋を整理中に見つけ出して、聴き直してみたら無性に出したくなったとのことで実現したものと聞いている。
 13年前の録音であるが二人の語る音楽には時を経て起こる経年劣化というものが全く感じられず、新鮮な驚きと感動を与えてくれる。この二人には、さあ、良い作品を創るぞ、というような気張った構えなどが全くなく、その分、懐の深いのびのびとした音楽が展開されている。
 前半の(1)〜(5)まではスタジオでの録音で(6)〜(9)がその3日後のコンサート録音であり、LPレコードのA面/B面のような感覚で楽しめる構成になっている。(1)と(2)は渋谷毅の曲で2曲の題名を合わせると「蝶々(てふてふ)が、とまった」と文脈がつながる。モンクの『Thelonious Alone In San Francisco』(Riverside)に通じる淡々として飾り気のない、しかし奥深い渋谷毅のピアノに川端民生が艶やかなビートで応える。バタさんこと川端民生のベースの音が床を這い、指が弦をこする音が凄みを倍加する。弦のきしみが往時のジャズを思い起こさせてくれる。バタさんの音には慈愛が満ちている。ピアノとベースのデュオにはD.エリントン=J.ブラントン(Bluebird)、P.ブレイ=G.ピーコック(Owl)、K.ジャレット=C.ヘイデン(A&M)などが直ぐ頭に浮かぶが本作はそれらと肩をならべ、類いない存在感を漂わせている。
 渋谷毅は人との係わり合いを大切にする人である。最近よく使われる絆などという仰々しい感じではなくもっと自然に人の気持ちを大切にする人なのである。音楽の世界に限らず、波長の合う人を瞬間に感じ取り交流を深めることを本来備えているのかも知れない。だから一度しっくりきた相手とは永く共演することになる。今回の共演相手、川端民生とも1977年の『COOK NOTE』(TRIO)以来、川端民生が53歳という若さで亡くなるまで続いた。
 二人の関係は2000年の7月、川端民生の死によって閉ざされたが、残された本作『蝶々在中』は永遠に不滅である。(2011年9月 望月由美)

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