再評価すべき偉大な音楽家の周年記念最新作

ドラムスのチコ・ハミルトンが去る９月２１日に９０才（卒寿）を迎えた。チコについては本誌の在ボルチモア・コントリビュータ須藤伸義氏がLive Report #264（http://www.jazztokyo.com/live_report/report264.html）とInterview #82（http://www.jazztokyo.com/interview/interview082.html）で近況を伝えていたのでバリバリの現役であることは承知していたのだが、現実に９０才に達した今、半年前に録音された新作を聴き、その体力、スピリット、想像力の維持にあらためて驚嘆せざるを得ない。解説によれば、チコは９０才の記念アルバム制作のために今年の３月NYのスタジオで２８曲のマラソン・セッションをこなしたのだという。そのセッションから記念アルバムが３種制作され、このアルバムがチコをトータルにフィーチャーした作品。手兵「ユーフォリア」を構成するメンバーは上記Live Reportと同じで、それだけに意志の疎通も十分、リーダー・チコの音楽性を反映したリラックスした演奏が続く。「ユーフォリア」は教鞭を執るニュースクールの教え子たちだが、チコの才能を見抜く眼力は同じくドラマーのアート・ブレイキーにも匹敵し、エリック・ドルフィーを始めロン・カーターやチャールズ・ロイドなどはチコのグループから輩出されたことは良く知られている。実験的なスタイルを試みた時期もあったチコだが、LA生まれのチコの真骨頂はやはりここで聴かれるようなソフィスティケートされたジャズにあるのだろう。そのなかでこそ、繊細なブラッシュ・ワークやマレット奏法も生かされるに違いない。ピアノに代わってギターが使われているが、「ピアノは音楽の流れを中断ことがあるし、ギターのサステインが欲しい」からという理由。初リーダー作はギター・トリオで、1955年の結成に参加したオリジナル・ジェリー・マリガン・カルテットもピアノレスだった。
なお、他の２作は、初リーダー作に倣った１０インチ・ビニール『Revelation EP』、もう１枚は、「ユーフォリア」の各メンバーの作品を取り上げたCD『Euphoric EP』。
この機会に、上記Live ReportとInterviewを併せ読み、チコ・ハミルトン（NEA Jazz Master） という偉大な音楽家を再評価して欲しいと願う。（稲岡邦弥）