90才チコ・ハミルトンに続いて85才のドラマー、ロイ・ヘインズ (1926年3月13日、マサチューセッツ州ロックスバリー生まれ)の最新作。前回の81才(1930~)ソニー・ロリンズ『ロード・ショウズ Vol.2』に続く大御所の新作だが、ロイはロリンズのアルバムでも叩いていた。ロリンズのアルバムでは、同じく1930年生まれの同期生ジム・ホール(g)とオーネット・コールマン(as)も参加していて驚かされたのだった。チコの最新作紹介でも触れたのだが、こういう大御所連のアルバムを紹介するのは決して敬老精神の発露の故ではなく、彼らの体力、スピリット、想像力が未だ衰えず（全盛期には及ばないにしても）、その音楽にスリルを覚え触発されるところ大であるからに他ならない。発売元のキャッチ「剛速球のジャズ」に偽りはないのだが、ロイの場合「剛速球」に留まらず、時折り見せる変化球にも冴えを見せ、現役プロ野球投手でいえば、“ダルビッシュ有”というところだろう。アルバム・タイトルの、本名のRoyを掛けた「Roy-alty」（帝王）からもそのセンスが窺えよう。老後を保証する「Royalty=印税」までは意図してはいないと思うのだが。共演歴の多いチック・コリアとのデュオに挑んだ＜All the bars are open＞にしても「bar」は「酒場」と「小節」のダブル・ミーニングである。＜All the bars are open＞、つまりこの曲は両者の完全即興演奏なのである。モンク作＜オフ・マイナー＞と共にロイ＝チック・デュオのこれら２曲はこのアルバムの存在価値を大いに高めている。もうひとりのロイ、ハーグローヴはヘインズ・スクールの優等生で、トランペットとフリューゲルホーンを見事に吹き分け音楽的には主役級の存在。長いキャリアを彷彿させる構成だが、決して懐古趣味には陥らないところは、「後ろを振り返らず、前進あるのみ」のヘインズの面目躍如。
11月にはCDの国内発売とブルーノートへの出演が予定されている。（稲岡邦弥）