# 851
『樹里からん/TORCH U』
text by 悠 雅彦
Universal J UPCH-1855 ¥2,800(税込) | ![]() |
樹里からん(vocal)
奥山勝(key/program:1、2、3、6、7、10)、阿部篤志(p/arr4)、秋田慎二(p/key/program/arr:5、8、9)、ジェイコブ・コーラー(p/arr:11)山木秀夫、橋本学、藤井摂、石川智 (ds) 平石カツミ、箭島裕二、須川崇志、杉本智和、斎藤順 (b) 大里和生(e-g) 太田恵資 (vln) ほか多数
1. Make - up Shadow
2. Kiss of Life
3. 夢で逢えたら
4. 恋の予感
5. わがままジュリエット
6. 君がいるだけで
7.別れのサンバ
8. 言葉にできない
9. あまく危険な香り
10.LA - LA - LA Love Song
11.秋桜(こすもす)
オープニングの「Make-up Shadow」(井上陽水)を出だしの1節聴いただけで、この1作の出来はおろか、樹里からんのシンガーとしての素質や技量までがくっきりと見通せる。並みのシンガーだとこうはいかない。いかに樹里からんというシンガーが並外れた資質の持主であるかの証明でもあるだろう。
半年前に前作の『TORCH』を紹介したとき以来、何度か彼女のライヴを聴くチャンスがあり、初めて聴いたときの新鮮な驚きはもう消え去っているはずだったが、にもかかわらず最初の1節だけで前回の驚きが甦るかのような感銘を体験しようとは、実は思ってもみなかった。まして前回と同じアレンジャーの起用など、前作を踏襲したともいえるアルバム作りという点で、まさか前作に勝るとも劣らぬ内容の作品が聴けるとは。この女性シンガーの実力と魅力は本物だと改めて感心させられた。
ここには60年代から2000年代にわたる日本の男性歌手群のヒット曲が全11曲集められている(最後の「秋桜」のみ山口百恵の名が作者のさだまさしと並ぶ)。中には長谷川きよしの(7)などは出だしの旋律がかなり厄介なはずだが、長く伸ばしたラインの処理が実に上手い。(7)に限らずどの曲も樹里が歌うと何と魅力的なウタに聴こえることか。これらの曲に親しんだことがなかった私にとって、「別れのサンバ」と「秋桜」以外の曲がかくも魅力的に響いてくるとは信じられない気持。これが偽らざる感想だ。それだけ樹里の手にかかると、ある意味で別の魅力的なウタに変身するといっていいのかもしれない。ここでの11曲は樹里からんという魔法使いの手で変身させられたJ - POPスタンダードといっても言い過ぎではないのではないか。彼女の日本語は実にナチュラルできれい。発声が自然であるゆえにヴォイスはつやつやとして輝かしい。その上、素晴らしくリズム感がよく、たとえば「夢で逢えたら」のヴォーカル・フレージングでも2度目のときは最初とは違うフレーズを繰り出す即興性が生きるのもこの抜群のリズム感ゆえだろう。
前作同様、アレンジがいい。この1作でも奥山勝、阿部篤志(4のみ)、秋田慎二が名を連ねる。曲によっては原朋直(tp)、佐野聡(tb)、太田恵資(vln)らが好ソロをとって盛り上げる。もう種明かしをしてもいいと思うが、実は前作の樹里とデュエットした印象的な「時代」(中島みゆき)での黒子のピアニストは小曽根真だった。本作の「秋桜」が日本での活動を開始したピアニストのジェイコブ・コーラーと樹里とのコンビ作という点で似ているが、「秋桜」の樹里の歌唱がまた終わりを飾るにふさわしい出来。映画の美しい1場面を見るかのようだ。(2011年11月1日 悠 雅彦)
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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