#  854

『Carsten Lindholm/Tribute』
text by 今村健一


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Carsten Lindholm (ds)
Eivind Aarset (g)
Joakim Froystein (g)
Hans Oxmond (g)
Rene Damsbak (tp)
Tav Klitgaard (tp/sounddesign)
Anders T Andersen (sax)
Audun Erlien (b)
Kristor Brodsggaard (b)
Jens Minke (sounddesign)
Vj Varm (visuals)

1. 3D
2. Elefantastic
3. 9th gate
4. Laila (to my love)
5. Dub3
6. J.M. (Jens Melgaard - R.I.P.)
7. M.M. (Mike Mainieri)
8. Enovation
9. Bazzland (Bugge Wesseltoft)
10. N.P.M. (Nils Petter Molvaer)
11. H.L.H. (to my Father - R.I.P.)

All composed by Carsten Lindholm

Produced by Carsten Lindholm
Recorded in Oslo and Copenhagen

 中村とうよう氏のお別れの会で参列者に配布された「中村とうようアンソロジー」という本を先日読み返していて、ラウンジ・リザースのデビュー・アルバム発売当時のレビューにこういう記述を見つけた。

 「ジャズというナワバリに安住する怠惰にまじめなジャズ・ファンにも、ロックらしいロックしか聞けない怠惰にまじめなロック・ファンにも、このレコードは全然面白くない。」

“面白くない”といいつつも実はこれ10点満点を献上しての評で、ラウンジ・リザースのジャンルやフォーマットに捉われずに音楽を作ろうとしている姿勢をとうよう氏は絶賛している。この一文をきっかけに、聴き手側の怠惰なまじめさもさることながら、アーティスト側も「ジャズというナワバリに安住」する(しない)ことに関しどの程度意識的なのだろう、というようなことを最近考えていた。

 ところで、デンマークのドラム/パーカッション奏者カールステン・リンホルムのこのデビュー作『Tribute』。最初聴いた印象を一言でいうなら、ブッゲ・ヴェッセルトフトやニルス・ペッター・モルヴェルといったノルウェー産フューチャー・ジャズの強い影響下にあるアンビエント・ジャズ。 実際その二人に捧げられたトラックも入っている。古典的なジャズのフォーマットからは逸脱しているものの、一聴すると“ありがちな北欧アシッド・ジャズ”と括られかねない中庸さも多分に併せ持っているというか。

 しかし、だ。アウトプットに過激さ・派手さは欠けるが、じっくり耳を傾けていくと細部から自分なりのサウンドスケープを開拓しようとする彼の熱意は十分過ぎる程伝わってくる。現在40代前半のリンホルムがジャズ・ヒーローとして掲げるのは、前述のブッゲやニルス・ペッターの他、マイク・マイニエリ、ビル・ラズウェル、エリック・トラファズ、アイヴィン・オールセットといった面々。それぞれエレクトロニクスを導入し“ジャズというナワバリに安住しない”独特の世界観を作り出してきたアーティストたちだ。

 幾層にも重ねられたギターやシンセサイザーが作り出す音の雲に見え隠れするヴィブラフォンやドラム等パーカッション。トランペットが奏でるメロディも、センチメンタルに流れそうになる手前で踏みとどまり、アブストラクトな雰囲気を醸し続ける。ドラマーだけあってリズム・アンサンブルは多彩且つ繊細で、曲によってはインドや中近東の香りも。リンホルムが彼の憧れてきたエレクトリック・ジャズの先達から学んだのは、ソロ演奏より全体のサウンド・ストラクチャーを重視するセンスだ。しかも、その硬質なグルーヴは、黒人音楽へのコンプレックスを全く感じさせない、ヨーロッパ・テクノ特有の美学の上で成立しているのが面白い。

 難をいうなら、低音を強調するより、ジャム・セッション的な響きを大切にしようとした全体のミックスが、折角アンダーグラウンドな妖しさを志向するサウンドを中途半端に“ジャズ”へと引き戻しているのが残念。だが、そんな問題も、ジャズというフォーマットに安住しない姿勢で常に新しいサウンドを模索すれば解消されていくことだろう。(今村健一)

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
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#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
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カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
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オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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