#  855

『夜の歌/尾崎宗吉作品集成』
text by 丘山万里子


ALM records/コジマ録音
ALGD-9110
¥2940

演奏:
モルゴーア・クァルテット(vl荒井英治、戸澤哲夫、vla小野冨士、vc藤森亮一)他

曲目:
「小弦楽4重奏曲」「幻想曲とフーガ」「初夏小品」「チェロ・ソナタ」「ヴァイオリン・ソナタ第2番」「ヴァイオリン・ソナタ第3番」「夜の歌」

録音:Inagi City Public [i-Plaza]
プロデューサー:Itsuko Ikeda
ディレクター&レコーディング・エンジニア:Yukio Kojima

 諸井門下となって間もなく、20歳を迎えようとする1935年に書かれた『小弦楽4重奏曲』ほか、残存する尾崎宗吉の作品を集めた作品集である。39年に兵役となり、42年に帰還したものの、翌年再び召集され、中国で戦病死している。享年30歳。作曲活動は正味5年というわずかな年月で、旺盛な創作をしたが、楽譜はわずかしか残されていない。
 『小弦楽4重奏曲』(モルゴーア・クァルテット)は冒頭の力強い和音から弾けるように飛翔する音群がいかにも若々しさを感じさせる。一転、のびやかな歌が流れる第2楽章、ピチカートで開始される軽快な第3楽章と、音楽する素直な喜びに満ち溢れた作品である。続く『幻想曲とフーガ』は、チェロ(藤森亮一)とピアノとのデュオで、ピアノ(山田武彦)にのって揺らぐ旋律が美しい。フーガはピアノの主題提示にすぐさまチェロが反応し、応答を繰り返す。『初夏小品』はソプラノ(竹田恵子)とピアノの1分ちょっとの小品で、同じ音形を繰り返すピアノのオスティナートに、ソプラノが早口で語る部分が新鮮だ。作詞は大木淳夫。
 尾崎のリズミックなピアノの扱いは、どの曲にも見られ、『チェロ・ソナタ』の第1楽章、駈け下るピアノとチェロのユニゾンに続くピアノもやはり素早い身のこなしで、チェロもともに溌剌。対してピアノの低音ソロから始まる第2楽章はゆったりして、幾分仄かな暗さを感じさせる。これは、最後に置かれた『夜の歌』に繋がる音世界である。続いて『ヴァイオリン・ソナタ』の第2番と第3番の2曲。両者ともヴァイオリン(荒井英治)がピアノと交互に交わす会話が楽しい。第3番の第1楽章はピアノ・ソロから始まり、神秘的な雰囲気が漂い魅力的だ。やはり『夜の歌』の系列と言えよう。打って変わってピアノの連打音にのってアッチェルランドがかかる第2楽章は、ちょっとショスタコーヴィチを思わせる。
 そして最後のチェロ(藤森)とピアノのための『夜の歌』。日本に帰還した1年の間に『ヴァイオリン・ソナタ第4番』や、ピアノ曲や歌曲など数々の作品を発表したが、いずれも楽譜不明となっている。この『夜の歌』は4分あまりの短い小品で、遺作となった。深々とした哀切なメロディーが胸を打つ。
 大戦の犠牲となった知られざる音楽家たちは、他にも居るだろう。池田逸子の解説にはそうした音楽家たちへの想いが綴られる。貴重な記録としても一聴しておきたい1枚である。(丘山万里子)

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