# 856
『KOUYATE - NEERMAN/SKYSCRAPERS & DEITIES』
text by 本郷 泉
NO FORMAT(2011年10月) | ![]() |
Lansine Kouyate (Balafon)
David Neerman (Electric& Acoustic vibes, Drums, Bass synth)
Antonie Synth (Bass synth)
David Akkin (Drums, Additional drums)
Guest musicians:
Balake Sissoko (Kora)
Anthony Joseph (Lead vocals)
1. Kalo Die
2. Requiem pour un con
3. Dietou
4. Le Commisariat
5. Toumbere
6. Phalenes
7. Haiti
8. Un soleil noir sur le declin
9. Hawagis
10. Djely
フランスの首都パリは、花の都であり、芸術の都であり、モードの都であり、その他すべての美の都であることは、誰もが知るところだ。同時に、アフリカ諸国、中東、東南アジア各国から多くの移民を受け入れてきたコスモポリタンな都市であり、社会生活面においてはそれゆえの問題を抱えつつ、一方で様々な外からの文化を受け入れ、混淆させ、新しい文化として発信し続ける魅力的な都市でもある。だからパリは音楽シーンでもまた、アフリカやマグレブやロマやアジアや中南米や、とにかく、いろんな音が入り込んでは混ざって生まれ変わって、そして日常に定着するといった、音楽好きの輩にはうらやましい環境が整っている都市だ。
2011年6月に来日したマリ人コラ奏者バラケ・シソコ&仏人チェロ奏者ヴァンサン・セガールの奏でる演奏は、間違いなくそんなパリの音楽シーンの中から生まれたオリジナルなサウンドだったし、音楽の進化の仕方にパリ的な新しい可能性を感じさせてくれたのだった。彼らのアルバムをリリースしたのが、設立7年目という若手のレーベルNO FORMAT。そのNO FORMATから、今度はマリ人バラフォニスト、ランシネ・クヤテと仏人ヴィブラフォン奏者デヴィド・ニールマンのデュオ2作目、『Skyscrapers & Deities』が発表された。昨今アラブの春でも話題になったFacebookは、若く才気あふれるふたりのミュージシャンにとっても、恰好の情報提供、交換の場である。彼らはレコーディングやビデオクリップの制作の様子、インタビュー・シーンなどを自身のページにこまめにアップし、積極的に活用してきた。だからこの『Skyscrapers & Deities』、わたしたちは、完成されたアルバムを単に受け身で聴くだけではなく、制作過程も一緒に楽しむことができたし、いまひとつ活気を失っているCD業界(販売業も含めて)に、もしかしたら何か明るい兆しをもたらす一助になるかもしれない、と予感させてくれるのだ。
バラフォンは西アフリカ諸国で広く使われている木琴。地域ごと、民族ごと、大きさや形、チューニング、共鳴のしかけなどが微妙に違うが、基本的には2本のスティックでぽこぽこと素朴で温かみのある音を造りだす。マリでは、もともとはグリオという特別の職業(伝承詩人、口承芸人)のひとたちが演奏する楽器だったが、現在ではグリオ以外の人たちも広く演奏するようになった。マリではバラフォンのソロ演奏はそれほど多くなく、たいていは他の打楽器や、コラなどの弦楽器との合奏、あるいは歌の伴奏で、『Skyscrapers& Deities』のようにバラフォンがメインのアルバムは実は珍しい。
ところで、このアルバムはマリ人アーティストが演奏しているからといって、マリ的な要素はそれほど濃厚ではないし、どちらかというとマリの音楽のテイストを残した、ランシネ・クヤテとデヴィド・ニールマンが作り出した全くのオリジナル作品、という印象である。その点、先のバラケ・シソコ&ヴァンサン・セガールの音楽に通じるものがある。つまり、お互いの演奏する楽器の伝統的な演奏、演目から一歩も二歩も前に踏み出し、お互いが持っているタレントを積極的にミックスさせ、自分たちのオリジナル作品に仕上げている、という共通点を見出せるのだ。
このアルバムでは、バラフォンのぽこぽこ音の隙間を縫うように絡み入り込むヴィブラフォンのしなやかな音に加えて、全編にわたってドラムやベースの低音とのアンサンブルがずんずん響いて気持ちが良い。荒っぽさを削り取った都会的なロック、という趣。2曲目故セルジュ・ゲンズブールのカバー曲。比較的原曲に忠実に演奏しているのに、違う曲に聴こえてしまうのは、歌があるかなしかの違いだけだろうか。
この2曲目のビデオクリップが楽しく見ごたえのある作品なので、リンクを張らせていただく。
http://www.dailymotion.com/video/xlojlm_kouyate-neerman-requiem-pour-un-con_music
3曲目、先のバラケ・シソコがコラで参加。7曲目、トリニダード・トバゴ出身英国在住のアーティスト、アンソニー・ジョゼフがヴォーカルで参加。以前、彼のアルバムにデヴィド・ニールマンが参加した縁で、今回は彼がゲスト参加したようだ。詩の朗読のようなヴォーカルが意外にもバラフォン、ヴィブラフォン、ドラムとよく合っている。
ラストはバラフォン・ソロ。タイトルのジェリはバンバラ語でグリオという意味。ランシネ・クヤテは、かつてマリが王国だった時代の、王家付きの由緒あるグリオの家系の出身だから、グリオという曲でアルバムをしめるのは彼のこだわりなのかもしれない。マリ南部のマリンケの抒情的なメロディと、バラフォンそのものの音の素朴さ、美しさを堪能できるトリにふさわしい一曲。
ついでに書き足せば、ランシネ・クヤテは本国マリでマリ国立合奏団の一員として、あるいは同じくグリオで歌手の母、シラモリ・ジャバテの伴奏者として活躍したあと渡仏、サリフ・ケイタのツアー及びレコーディングに参加、92年にはカッセ・マディ・ジャバテと共に来日、彼のステージで共演している。
デヴィド・ニールマンに関しては残念ながら、詳しいバイオグラフィの入手が間に合わず、いつかまた別の機会にご紹介できればと思う。7曲目にヴォーカルで参加しているアンソニー・ジョゼフのアルバムや、韓国人ジャズ・ヴォーカリスト、ユン・サン・ナのアルバムなどのレコーディングに参加してきたようだ。
かつて交わることのなかった、異なる、しかし、ルーツはきっと同じだったに違いない、ふたつの楽器の出会いは、これからもきっと思いもかけない音楽に進化し、リスナーに受け入れられ、パリの音楽シーンをけん引していくのだろう。引き続き注目していきたい。(本郷 泉)
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