#  859(アーカイヴ篇)

『Miami Saxophone Quartet/Fourtified』
text by 関口登人


Fourtitude Records (2009)

Gary Keller (ss,ts) Gary Lindsay (as, synth) Ed Calle (ts) Mike Brignola (bs) Jim Gasior (p on 3,4,9) Chuck Bergeron (b on 2, 3, 4, 9) Mike Harvey, Lee Levin ( ds on 9) Richard Bravo (perc) Dan Warner (g on 9)

1. Seventh Sign
2. Blue Rondo a la Turk
3. It's a Raggy Waltz
4. Dancing on a Cloud
5. Jazz Suite for Double Quartet Mvt I
6. Jazz Suite for Double Quartet Mvt II
7. Jazz Suite for Double Quartet Mvt III
8. Wapango
9. Spunky

 ハーマン・バンドのOBによるサックスの新たな可能性を求めたスマートなアルバム

 1987年にウディ・ハーマンが亡くなって、早や四半世紀が過ぎようとしている。振り返ってみるとこのバンドを去来したミュージシャンの数は相当数にのぼるが、彼らは後のジャズシーンに大きな功績を残している。枚挙に暇はないがすでに亡くなった人もいれば、現在も第一線で活躍している人も含めて。
 マイアミ・サクソフォン・カルテットは1996年ハーマン・バンドに在籍したサックス・プレイヤー、ゲイリー・ケラーがバンド卒業生に呼びかけて結成された。メンバーには出入りもあるようだが現在は今回紹介するアルバムのメンバーで落ち着いているようだ。
 ゲイリー・ケラー(以下ケラー)はシナトラ、メル・トーメ、デイブ・リーブマン、ジャコ・パストリアス、ケニー・ウィーラー、クレア・フィッシャーらとの共演も経験している。近年はマイアミ大学で教鞭をとっている。
 バリトン・サックスのマイク・ブリグノラはグループ結成当初からのメンバーでハーマン・バンド時代はサックス・セクション(いわゆるフォー・ブラザーズ)でバンドの基底部を支えたバリトン・サックスプレイヤー、サージ・チャロフの役割を果たしていた。ゲイリー・リンゼイ(以下リンゼイ)はパフォーマーとしてシナトラ、トニー・ベネット、マイケル・ブレッカー、ジャコ・パストリアスなどと共演しているが、また作・編曲者としてポップスからジャズまで幅広く実績を残している。
 テナーのエド・ケイルは腕っこきのミュージシャンでリーッキー・マーティン、グロリア・エステファンからアルトゥール・サンドバルまでなんでもこなすトップクラスのレコーディング・アーティストだ。
このユニットでは4作目になる『FOURTIFIED』は凄腕の4人にリズムセクションが加わっている。また(6)、(7)、(8)では驚きのパフォーマンスが待っている。
 (1)はロン・ミラーのヒットチューンで重奏するサックスの豪快なボイシングが楽しめる。リンゼイはシンセサイザーでアコーディオンのような面白い効果をだしている。(2)はブルーベックの変拍子の名曲。複雑なテーマ部のアンサンブルはノンリズムで吹き飛ばしていて痛快だ。(3)もブルーベックのワルツナンバーだが軽快なピアノのテーマの後、分厚いサックスが引継ぎ、さらにソロへと繋げるがオリジナルの面影はなくなり豪快なワルツに再作曲されている。エド・ケイル作・編曲の(4)は重かろやかで幻想的な雰囲気を醸し出しつつ、各メンバーのソロもたっぷり楽しめる仕掛けを具えている。(5)(6)(7)はリンゼイの作でバーゴンジ・ストリング・カルテットも加わった「ダブル・カルテットのためのジャズ組曲」。お互いがまったく違和感なく溶け合い、色彩豊かな空間をつくりだし、ソロも交えながら贅沢で爽快なプレイが繰り広げられている。(8)ではパキート・デリベラの作・編曲がそのまま使われている。楽しげにサックスがソリを入れたり、離反したり、突っかかったり、寄り添ったりが微笑ましい。ケイル作の(9)はジャズ・ロック調のナンバーで4人すべてが最後にのびのびと(?)ソロをとっている。

 サックスの新たな可能性を求めて(多分、ハーマン・バンド時代に培われたのだろう)、パフォーマンス、作・編曲のスペシャリストたちがその持てる力を注ぎ、ストリングスとのコラボにも挑んだインテリジェンスあふれるスマートなアルバムだ。(関口登人/COJAC)

*このメンバーは11月17日から20日までBLUE NOTE TOKYOでジャコ・パストリアス・バンドのギグに出演しますよ。
*M・S・Qのサイトは;http://www.miamisaxquartet.com/

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
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#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
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#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
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オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
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#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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