#  860(アーカイヴ篇)

『Tri-O & Sainkho/Forgotten Streets of St. Petersburg』
text by 岡島豊樹


Leo Records CD LR 439

Tri-O:
Sergey Letov (bs & ss, b-cl, fl, Chinese-fl, piccolo, swanee whistle),
Alexander Alexandrov (bassoon, swanee whistle),
Yury Parfenov (tp, altohorn)

Sainkho Namchylak (voice)

1. Buddhist Temple in Primorsky Prospect
2. Seven Corners. Wind
3. Pretenders
4. Singing from the Open Window
5. Prostakovich Ballet
6. Through the Country ards
7. The Ethnography Museum
8. Northern Ghosts
9. Singing Sphinx
10. Old Boats
11. Transformation of Matter
12. Forgotten Streets of St. Petersburg
13. The Legend
14. Urban Birds
15. Mikhailovsky Castles at Night

Recorded December 11, 1998

 1980年代の旧ソ連では自由きわまりないジャズが花盛りになり、「新ロシア・アヴァンギャルド」と呼ばれた。ソ連ではレコード会社は国営だったから、レコード盤に刻まれたものは少なかったが、それを嘆いた在外ロシア人がガンガンLPに刻んで世界に向けて発売したおかげで(Leo Records)、日本にいながらにして次々と驚きの演奏に出会うことができた。セルゲイ・クリョーヒンのショッキングなピアノ・ソロ集には『Ways of Freedom』というタイトルがついていた。私たちにはなかなか実感しにくい不自由さのなかで、おのおのがやりたいことをやるための方法を見い出していたことや、フリーダムを手に入れる方法はいくつもあるということをこのタイトルが代弁していると考えていい。多士済々、みな独特の方法で奏でたのだった。ペレストロイカ(改革)が進む前から、秘密警察の目が光る非公式芸術サークルの集いで即興で奏で、奇妙キテレツなクリョーヒンのポップ・メハニカで活躍し、絵画、演劇、文学、舞踊他の前衛たちとも広く深く交流したセルゲイ・レートフの音楽は実にフトコロが深い。
 1980年代半ばに、セルゲイ・レートフが同じ1956年生まれの管楽器奏者たちと組んだトリオ「三つのオー」のポリスタイル折衷の過激さは他に類を見ない。このトリオは少しメンバーチェンジがあったが今も続いている。ここに挙げたのは、カザフスタンの伝説的なジャズ・グループ「ブーメラン」で妙なるシルクロード・テイストを醸し出したジャズ・トランペット奏者ユーリイ・パルフョーノフおよびミステリアス・バスーン・インプロヴァイザーのアレクサドル・アレクサンドロフとのトリオで活動した時期の「三つのオー」である。この「三つのオー」はメロディックなアプローチを主体にした演奏をしている。時代の大きな変容の中で、マイペースで、やりたいことをやってきた3人組である。のびのびとして、しなやかに、堂々として、そして繊細に、3人の音は多様な紋様を編み上げていくのである。まるで絵巻きものを見ているような気になってくる。そんな風景の中でサインホが、つぶやき、泣き、喜び、歌い、哀しみ、笑い、懐かしみ、叫び、夢見る。サインホは80年代にモスクワで、セルゲイ・レートフらとの共演を通じて独特の前衛的な表現者として注目されるようになった人である。この人たちの絆は強い。このCDを聴いていると、絵巻物どころか、演劇を観ている気になってきさえする。サインホはステージでふだんから演劇的な身ぶりも織り込んでいるが、そのせいだけではないかもしれない。セルゲイ・レートフの演劇との付き合いはかなり深い。そのひとつがタガンカ劇場で、かつてタガンカのメンバーとして来日したこともある(「マラー/サド」公演に出演して劇中で演奏もした。タガンカとの縁は深く、「モスクワ・ペトゥシキ」にも出演した)。レートフの即興演奏のしなやかさ、絶妙の間合いのとりかたなどは演劇をはじめとした多様な表現領域との共演からもたらされたものかもしれない。
 こんな興味深い録音が突然CDになって出てくるなんて素敵だ。サンクトペテルブルクの忘れられた(今も魅力的な)街路のように、ロシアの魅力的な音楽の録音も一杯埋もれているのかもしれない。(岡島豊樹:東欧ロシアジャズの部屋)
*セルゲイ・レートフの来日情報については国内ニュースに掲載。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
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#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
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カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
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オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

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INTERVIEW
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#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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