# 862
『一噌幸弘トリオ/咲くシャク』
text by 望月由美
能楽とジャズの世界を往き来しながら笛に生命を吹きこむ一噌幸弘「一噌幸弘トリオ」の新作である。一噌は能楽と並行して様々なユニットを結成し同時進行で活動しているのでこのメンバーによるトリオに対してのみ「一噌幸弘トリオ」と名乗り、一噌が編成したほかの三人編成のユニットと分けている。このトリオとしては2006年の『カカリ乱幻』(tohyohyo-002)以来の2作目となるが前作にもましてカラフルに幻想度を増している。そして音の密度が濃く、日本の魂の唄と呼びたくなるような風景がくっきりと浮かび上がる。一噌幸弘の吹く様々な管からは音を極めることに挑戦する潔さが伝わってきて聴く度に新しい発見がある。
このレコーディングのすこし前に3.11東日本大震災が日本を襲う。一噌幸弘は未曾有の災害にもかかわらずめぐる季節のままに咲く満開の桜のもと、今回のアルバムの構成や作曲の案を練ったという。復興への思い、そして震災直後桜が咲くのを待たずに亡くなった母への思いをこめて制作に臨んだという。アルバムのタイトル、桜咲くという意味の『咲くシャク』もこのような思いを込めて名づけられたものと自ら語っている。こうした一噌の思いがひしひしと伝わってくる作品である。一噌はここで能管、田楽笛、篠笛のほか各種リコーダー、ゲムスホルン、ホイッスルまで笛という笛を自在にあやつり、鬼怒無月と吉見征樹が緩急自在のリズムで一噌を鼓舞する。ここでの3人の綿密な関係は時にオレゴンのように清澄に、時にコルトレーン・カルテットのようにダイナミックに睦み合う。とりわけ(1)<返ししゃく上>でギターをバックに長いカデンツアを吹き、自らを飛翔させる儀式のように音の密度をたかめ凛々しく疾走し高揚してゆく一噌の世界には魅きつけられる。また(4)<たて笛乱舞之序>ではなんと無伴奏ソロでリコーダーを5本同時に銜えて一人でアンサンブルするという至芸も聴かせてくれる。ローランド・カークも同時演奏は3本までだったように記憶しているが5本とはびっくりである。そして(9)<天を駆ける風―母へ>は震災直後になくなった母への思いを音にこめ、天に届けるべく演奏したとのことであるが、滋味あふれる懐の深い篠笛による鎮魂の笛の音に深く魅了される。『一噌幸弘トリオ/咲くシャク』は一噌にしか持ち得ない天性そなわった感性に加えて官能的な凄みも加わり65分22秒という長尺を一気に聴かせてくれる秀作である。(2011年12月 望月由美)
追悼特集
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#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
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第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
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#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
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#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
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