#  864

『シューベルト:交響曲第7番「未完成」&ヴァイオリンと管弦楽のための作品集』
text by 大木正純


RCA(SICC1530) 2,520円(税込)

デイヴィッド・ジンマン(指揮)
チューリヒ・トーンハレ管弦楽団
アンドレーアス・ヤンケ(ヴァイオリン)

曲目:(シューベルト)
1. 交響曲第7番ロ短調D.759「未完成」
2. ヴァイオリンと管弦楽のためのロンド イ長調D.438
3. ヴァイオリンと管弦楽のためのポロネーズ 変ロ長調D.580
4. ヴァイオリンと管弦楽のためのコンツェルトシュトゥック ニ長調D.345

録音場所:チューリヒ・トーンハレ
録音日時:2011年5月9日〜11日、9月7日〜9日
プロデューサー:エルマール・ヴァインガルテン
エンジニア:サイモン・イードン(Simon Eadon)

 昨今はクラシック音楽界でも快速テンポの演奏が少なくない。ロジャー・ノリントンが60分をほんの少しだけオーバーする超特急第9交響曲を録音したのは2002年、つい最近リリースされたシャイー指揮のベートーヴェン交響曲全集(オーケストラはゲヴァントハウス管弦楽団)も、全篇、とにかく速いのなんの!ダニエル・ハーディングのような若造がたとえ2倍速の「ドン・ジョヴァンニ」を聞かせてもそれほど驚きはしないのだが、もう老練とも言える大指揮者が、しかも老舗オーケストラを率いて猛ダッシュを繰り広げるのには、いささか唖然とする今日このごろである。

 人一倍旺盛なレコーディング活動を繰り広げるジンマン指揮チューリヒ・トーンハレ管弦楽団の新譜、シューベルト・アルバムのうち、「未完成」がまた常識を外れるほどのハイ・スピード演奏だ。しかし、ここには不自然さがほとんどない。それはジンマンがスコアの細部まで周到に目を配り、全曲を丹念に磨き上げているからだろう。ともあれ、この演奏は夢のようにロマンティックな音楽という「未完成」の一般的なイメージを覆して、いつになく鋭い訴えを突き付けてくる。

 思うにジンマンは、闇雲に快速テンポを持ち出したわけではなく、ここでひとつの問題提起(ないしはテスト演奏)をしているのではないだろうか。と言うのも、いっしょに入っている独奏ヴァイオリンと管弦楽のための3曲では、対照的にソロが柔らかく伸びやかに歌う、ロマンティックな演奏を聞かせているからだ。忙しいスケジュールに追われていると、指揮者というのはルーティンを恐れて、ついいろんなことをやってみたくなるのかも知れない。

 若くして名門トーンハレのコンサートマスターに抜擢されたアンドレーアス・ヤンケが、盤石のテクニックに支えられた、美しくもみずみずしいソロを披露している。この稀にみる才能の紹介も、ジンマンの狙いだったに違いない。(大木正純)

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.