#  866(アーカイヴ篇)

『Hank Jones meets Cheick Tidiane Seck and the Mandinkas/SARALA』
text by 本郷 泉


Hank Jones(p)
Cheick Tidiane Seck(Hammond B-3,perc,lead vocal)
The Mandinkas:
Amina Annabi(Lead vocal)
Manian Damba(Backing vocal,solo vocal)
Kasse-Mady Diabate(Lead vocal)
Tom Diakite(Backing vocal,lead vocal,perc)
Assitan“Mama”Keita(Backing vocal,Solo vocal,perc)
Fatoumata“Mama”Kouyate (Solo vocal)
Aly Wague(African flute)
Djely Moussa Conde(Kora)
Lansine Kouyate(Balafon)
Moriba Koita(N’goni)
Ousmane Kouyate(Lead and rhythm guitar)
Manfila Kante(Lead guitar)
Djely Moussa Kouyate(Lead and rhythm guitar)
Sekou Diabate(Bass guitar)
Cesar Anot(Bass guitar,backing vocal,perc)
Eric Vinceno(Double bass)
Moussa Sissokho(Djembe,Tama)
Mare Sanogo(Doum doum)
Jorge Amorim(perc)

1. Aly Kawelw
2. Sarala
3. Mandingfoly
4. Tounia Kanibala
5. Komidiara
6. Fantague
7. Make
8. Walidi
9. Sounjata
10. Hank Miri
11. Hadja Fadima
12. Moriba Ka fply

Verve France/1996年7月

 日本の外務省主催の「アフリカン・フェスタ」というイベントがある。随分前、かれこれ20年くらい前から開催されていたと思っていたが、外務省のサイトによると1999年から毎年開催、なのだそうだ。世界のカレンダーでは、5月25日はアフリカ・デーと定められていて、「アフリカン・フェスタ」は毎年このアフリカ・デー直近の週末に開催されてきた。プログラムはかなり充実していて、中でも個人的に毎年とても楽しみにしているのが、招聘アーティストの無料コンサートである。アーティストはこの「アフリカン・フェスタ」のためだけに来日し演奏する。震災の影響で11月に延期開催となった今年は、マリ人キーボード奏者、コンポーザーのシェイク・ティジャヌ・セック一行が来日、プログラム上の演奏時間を大幅に超えた熱いステージを見せてくれた。

 シェイク・ティジャヌ・セックと聞いて真っ先に思い浮かぶのが、「アフリカン・フェスタ」のステージとは一味違う趣だけれど、アメリカ人名ジャズ・ピアニスト、故ハンク・ジョーンズ氏との共作である、1996年発表のこの『Sarala』だ。リリースされた当時、気に入って繰り返しよく聴いた1枚だ。ライナーノートによれば、ブルースやジャズに通じる西アフリカの音楽に惹かれたハンク・ジョーンズ氏が、当時すでにパリで活躍していたシェイク・ティジャヌ・セックにラブコールを送り、アルバム制作が実現したらしい。失礼かつ恥ずかしながら、わたしはハンク・ジョーンズ氏がどれほど偉大なジャズ・アーティストなのか全く知らなかった。インターネットで検索すれば、ソロ・アルバムも沢山リリースされていることや、彼に関する記述などが容易に沢山見つかり、世界中に彼のピアノに魅せられた多くのファンがいることを知ることができる。けれど、このアルバムでは、どちらかというとピアノはごく控えめに、ジャズというよりは、マリ人ミュージシャンのアンサンブルの脇役、またはいちパートに徹している印象だ。

 ところで、このアルバムでは、ハンク・ジョーンズ氏と出会った沢山のマリ人ミュージシャンが、マリの東西南北各地の音楽をたっぷり聴かせてくれる。オープニングのアリ・ワゲのアフリカン・フルートは、これから始まる楽しい旅を告げるメッセンジャーだ。そしてアルバム・タイトルにもなっている2曲目「Sarala」以降、バンバラ、マリンケ、ワスル、砂漠地方の音楽...と音楽でマリ一周旅行ができてしまう。首都バマコから、南部カンガバあたりへ、それから北上し中部の町セグー、砂漠の町トンブクトゥへと続き、ハンク・ジョーンズ氏とシェイク・ティジャヌは言ってみれば、わたしたちリスナーを導く良きガイドというところか。次はいずこへ、とちょっとした冒険心をくすぐられながら、夢中になって放浪し気が付いたら旅の終着点へ、最後はどこか小さな村の草原の中で余韻にひたりながらンゴニのソロで旅を終える。

 どの曲もコラ、バラフォン、ンゴニ、ジェンベ、ドゥンドゥンといった伝統楽器のアンサンブルがメインで、ちょうど良いタイミングでシェイク・ティジャヌのオルガンやハンク・ジョーンズ氏のピアノが無理なく入り、こってりしがちな各曲をシャープにきりっと引き締めてくれる。更に豪華なボーカル陣、カッセ・マディ・ジャバテやトム・ジャキテ、チュニジアのアミナ・アンナビ、マニアン・ダンバ、ファトゥマタ・クヤテの歌が曲を完璧なものにしている。マリの音楽に、このアルバムに、やはりコブシは欠かせない。

 このアルバムでは、ピアノはごく控えめに、でも「ここ」というところで登場し、全体的には、理屈抜きにマリの音楽が豊かで楽しいということを表現している。そのあたりのバランス加減に、ハンク・ジョーンズ氏の美学を、シェイク・ティジャヌ・セックとは幸せな出会いだったとことを感じさせてくれるのだ。(本郷 泉)

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
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Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

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