ルーマニア生まれの歴史的名ヴァイオリニスト、ジェオルジェ・エネスク（通称ジョルジュ・エネスコ）は、ややもすると“作曲もした”という程度に思われているかも知れない。だがどっこい、若き日の作品たち、彼が14歳（！）から25歳までに書いた各種室内楽小品によるこの１枚を聴けば、作曲家としてエネスクがいかにセンスの良い、傑出した天才であったかが、一目瞭然である。

　収録作品はピアノ独奏曲（１曲）に始まり、ヴァイオリンとピアノのための小品が４曲（うち１曲のピアノは連弾）、ヴィオラとピアノ、フルートとピアノ、チェロとピアノ、トランペットとピアノのためのデュオがそれぞれ１曲、さらに三重奏曲が２曲、合わせて11曲という多彩な内容。弦楽器のための作品が秀逸であるのは驚くに当たらないとしても、たとえばフルート曲「カンタービレとプレスト」やトランペット曲「伝説」までもが、揃って楽器の魅力をフルに生かしたすばらしい小品であるのには感嘆のほかはない。さらに冒頭に収められている「パヴァーヌ」を聴くと、エネスクが仮に、ピアノ曲の創作に生涯をかけて取り組んだとしたら、どんなにか豊かな成果をこの分野にのこしただろうかと、思いを巡らしてみたくなるほどなのである。作曲が結果として彼の“副業”となってしまったのは、エネスクのヴァイオリン演奏を聴けなかった私たちにしてみれば、むしろ痛手ということになるだろう。

　この１枚を紹介したのは、決して内容の珍しさゆえではない。独特の情感に溢れたこれら美しい小品の数々は、初めて聴く多くの人々を深く魅了することだろう。（大木正純）