# 879
『菊地雅章トリオ/サンライズ』
text by 多田雅範
ECM/ユニバーサル UCCE-1131 2,600円(税込) 4月4日発売予定 |
菊地雅章(p)
トーマス・モーガン(b)
ポール・モチアン(ds)
1. Ballad 1
2. New Day
3. Short Stuff
4. So What Variations
5. Ballad 2
6. Sunrise
7. Sticks And Cymbals
8. End Of Day
9. Uptempo
10. Last Ballad
録音:ジェームズ A.ファーバー@アヴァター・スタジオNYC 2009年9月14-15日
プロデューサー:マンフレート・アイヒャー
ついに出た。世界のプーさん(菊地雅章)のECMデビュー、ピアノ・トリオ盤
冒頭の1分14秒くらい聴いたあたりで、リスナーはリスナーであることを止め、リスニングルームを漂い、建物を抜けていってしまってもおかしくはない。外は漆黒の闇だ。耳はおのれの来歴を紡ぎはじめたとしてもそれは音楽だけが持つちからなので逆らわないほうがいい。
ECM=マンフレート・アイヒャーの経営方針に物申すわけではないが、このプーさんのトリオをリリースするのもずいぶん待たせたな。プーさんが自分のスタジオで録ったソロを聴いて早々に契約した05年のECMではなかったのか、翌年リリースをぶちあげていたではないか。おれならそのソロを、多少音に傷があったとしても音楽がそこにあればリリースしたぜ。モティアンのグループで「化けた」ベーシスト、トーマス・モーガンとのピアノ・トリオを録音したという報せを受けてからもずいぶん経つ。この間、クレイグ・テイボーンが当初トリオでの録音だったのが事情のためソロ録音への変更がなされ、そのソロ『Avenging Angel』が昨年リリース、即座に「ピアノ・ソロの革命がまたしてもECMから」という評価となって世界に迎えられた。これはプーさんのピアノ・ソロの露払いの役割りを担うのだろう?、それくらいプーさんのピアノは格別な衝撃を与えるはずだという直感にも支えられている。しかしながら、ジャレットのリオ公演をスタンダーズ新録リリースと順序を換えてまでリリースしたり、どんだけ売れるんか知らんがトルドなんとかというクソみたいなピアノを見分けのつかないようなジャケで涼しい顔をしてリリースしている昨今のECMを見ていると、そういう愚痴をたたくおのれの老いだけが寒中身に沁みていらあな。
お聴きのように、モーガンがベースであるがゆえに、ゲイリーとのトリオ「テザート・ムーン」とは異なった赤裸々さが聴き手を揺さぶる得難い時間が続く。ラストの3トラックに至る、演奏する精神の苦闘、辿らなければならない耳の居合いの数々。ラスト3トラックだけをいきなり聴く暴挙も、おれだからやっぱりやってみたが、それはチガウ。この1枚の10トラックは、さながら交響曲のようになっている。
...この隙の無さ、を、見事だと言い切ってよい。ふと、おれがステファン・ウインターならどう録っただろうと考えてみる。土台、違うスタジオの雰囲気になっているだろうし、ユルんだり、ナゴんだりする、ときにスタジオに笑い声がするような手触りを録ったかもしれない。思えば、モティアン〜ロヴァーノ〜フリゼールはECMで世界に登場し直後に、彼らはそれぞれJMTなりBambooなりNonesuchなりWinter & Winterにリリースの拠点を移した。ECMにとっては逃げられた格好なのか?Winter & Winterでのモティアン・プロジェクトで唯一のピアニストの座にあったプーさんを、「化けた」トーマス・モーガンを、ECMが録ったのが本作であるという、このあたりの因縁は留意しておいていい。ECMのマンフレート・アイヒャー、Winter & Winterのステファン・ウインター、それぞれのレーベルのカタログのありよう、同じドイツ人らしい透徹した音楽への眼差しのその差異は、80年代以降のジャズや現代音楽をまたいで拡散した音楽状況を考察する上で避けて通れない二人の巨人である。(多田雅範)
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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