# 880
『Billy Hart/All Our Reasons』
text by 多田雅範
ECM2248 |
Billy Hart (ds)
Ethan Iverson (p)
Mark Turner (ts)
Ben Street (db)
1. Song for Balkis
2. Ohnedaruth
3. Tolli’s Dance
4. Nostalgia for The Impossible
5. Duchess
6. Nigeria
7. Wasteland
8. Old Wood
9. Imke’s March
Recorded by James A. Farber@Avatar Studio, NY, June 2011
Produced by Manfred Eicher
本道を、ECMらしくズラし、見立て直しをしている
ドラマー、ビリー・ハート。1940年生まれ。ウィキペディアでみると、マイルスの『オン・ザ・コーナー』、ハービーの暗黒時代、ベニー・モウピン『ロータスの宝石』(ECM)にその名がある。チコ・フリーマンやスタン・ゲッツの盤でも叩いていたとある。
「すべてのサックスを手にする音楽大学の学生が参照点としている」現代ジャズ・サックスの伝道師マーク・ターナー、このキャッチフレーズがターナーの不思議な立ち位置を示しているかもしれない、ライブではその奏法の革新性やフレーズの極端な奇形とその中毒性は明白となっているにもかかわらず、いくつものリーダー作は実に優雅におとなしく整った風情でもあり、キラリと光るテンションが聴けるのがややマイナーな盤だったりと、ミュージシャンズ・ミュージシャンという呼称も哀しいところだ。おれに言わせれば、カート・ローゼンウィンケル・グループ『レメディ:ライブ・アット・ヴィレッジ・ヴァンガード』2枚組、とりわけ「ア・ライフ・アンホールズ」というトラックがあれば、それでいいとなる。
そんで、ピアノが、あの「バッド・プラス」のイーサン・アイヴァーソン。史上最轟音のピアノ・トリオ、デヴィッド・ボウイやピクシーズのカヴァー、という話題だったバッド・プラスのサウンドにはアイディア賞はあげられても何というのだろうジャムバンドの系列にあるだろう?とか、the necksのほうが聴いていたいわ、という天邪鬼なわが耳はCDを3枚聴いたことがあるばかり。しかし、なかなかのピアノを刻む逸材であった。
老兵ビリー・ハートが伝道師ターナー、最轟音アイヴァーソン、定評あるベン・ストリートとカルテット活動をしていたとは知らなかった。06年にHigh Noteレーベルで『Quartet/Billy Hart』という第1作が出ている。かなり全開モードの熱いジャズ盤だ。このカルテットの個々のサウンド力学を、明らかに分解し解析し、再構築した美学のありようがここにはあるのがさすがECMといったところか。
もちろんアイヴァーソンは轟音であるわけはなく、そのデリカシーの無い勇気は芯のしっかりとした打鍵となって硬質な響きをサウンドに与えていることに成功している。ベースのストリートも前に出ていることもあって聴かせるし、すると柔らかいターナーのサックスが実にすっきりと浮上してくるという理想的な配置であることに気付く。老兵ハートの叩きは年輪を感じさせる芸達者ぶりで、現代ジャズ以前という意味での「トラッディショナル」なジャズの範疇に収まるにしても実に多彩な小気味良いほどの叩きっぷりで、その軽快さが新鮮だ。
比重が1より重たいのがピアノのアイヴァーソンとベースのストリートである。比重が1より軽いのがサックスのターナーとタイコのハートである。ね、フツーと違うでしょう?
それにね、なんか各プレーヤーは一旦自分の奏法なり楽器の鳴りとかをゼロから確認しなおしてからスタジオで鳴らし始めたような、それを凄いと言えるのかどうかは別として、リセットしてまた自分を発見したような凄み、あまり説得力の感じない言い方だよね、そんなことを感じる。
とらえどころのないサックス・プレイヤーだとジャズ・ファンはきっと言うだろう。いつ決め!てくれるの?とか、ところがそこがターナーの真骨頂であり可能性。ライブではデモーニッシュな逸脱フレーズでサウンドを拡散しまくるだろう、おそらく20分以上の演奏として。
トリスターノ〜クール・ジャズの現代的継承の伝道師マーク・ターナーを、ライブでじかに聴いた聴衆はぞっこんになるとして、なかなかレコーディングでは録りづらかったのである、世界は。そうでもないか?『バラード・セッション』もいいんじゃが。ターナーのデモーニッシュ逸脱地獄ベスト3トラック「ここを聴け!」というのもそのうちお聴かせいたしまする。
ラスト・トラックの、口笛から始まり、口笛で終わるなんて曲、どうなんだろうねえ、アイヒャーのやらせ?、でも、なんか新しい空気感を漂わせているようで好感を持った。いわゆるサックス入りピアノ・カルテットの本道を、ECMらしくズラし、見立て直しをしているところがこの盤の聴きどころだ。(多田雅範)
Photo by John Rogers/ECM
追悼特集
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
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#10 Contents
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・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
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第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
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「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
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#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
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オスロに学ぶ
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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